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Delire de Voyage / デリール・ドゥ・ヴォヤージュ

■HÆC DIES (2023年)

マルコの福音書の16章の中で、復活祭の様子が描かれています。当時の墓は洞窟のようになっており、そこを円盤石でふさがれていました。マグダラのマリア、ヤコブの母マリア、サロメの3名がイエスの遺体に塗る香料(ミルラ)を持っていくと、すでに円盤石は動かされており、白く長いローブ(衣服)を着た青年(天使)が、イエスはすでに復活されたと告げた。という場面を香りにしたもの。タイトルはラテン語で「この死」。

 

 

トップ:オレンジ、ジャスミン、アロエベラ、ベルガモット
ミドル:ピーチ、シダーウッド、ローズ、ミルラ
ベース:バニラ、ムスク、アンバー、サンダルウッド、パチョリ

 

 

ピーチとオレンジが重なると、どことなくアプリコット調に感じられるようになるのですが、この香りはピーチの瑞々しい部分を表現したのではなく、ピーチの中でもラクトニックなココナッツ調の部分で甘く香る素肌を表現したような印象を受けました。フルーティーフローラルウッディの調香ではあるのですが、甘さも最初から香り、フルーツの部分は可愛らしいというほどではなく、基本的にはスイートフローラルウッディを軸として広がり、そのベースに素肌感のあるムスクがあるのです。彼のラインはフラン金銭すの香りがシグネイチャーなエッセンスとして散りばめられていますが、この香りにはそうした部分がなく、ストーリーの中に出てくるミルラがアクセントとして僅かに加えられています。後半はピーチの中のラクトニック(クリーミー)な香りがウッディムスクに重なり、素肌感を増してい消えていきます。ごく僅かにクミンのアクセントがあればイエスっぽい(男性像)になっていたのではないかと思うのですが、そこはイエスですから美しいままのウッディムスクに留められています。パチョリの印象が強くないのは、フィリッポがあまりパチョリを好まないから。彼のラインの中では誰もが使いやすい香りの1つです。(10/04/2023)


■Notre_Dame 15. 4. 2019 (2020年)

教会と縁深い仕事をしているフィリッポにとって、2019年4月15日のパリのノートルダム寺院炎上、というニュースは卒倒しそうなショックだったことでしょう。彼はフランキンセンスだけではないノールダムの姿を、特別に中に入らせてもらった経験から、焼けた石に放水された水などを含めて、表現したもの。

 

 

トップ:ネロリ、バジル、コリアンダー、ジンジャー、アイリス、レモン、オレンジ、ベルガモット、フランキンセンス、ガルバナム
ミドル:スズラン、ゼラニウム、アンブレット
ベース:パチョリ、ベチバー、モス、プレシャスウッド、トンカビーン、アンバー、サンダルウッド

香りはまず調香にはないタールのスモーキーな香りでスタートです。焼けたのだからタールがなくては始まりません。でも、トップにあるタール香は炎上の様子を表現しているわけで、そこから香りは焼け跡の残された香りへと変化していきます。タールは決して強くはなく絶妙なバランスで、トップでは少しグリーンやフローラルも顔をのぞかせましたが、ミドル以降は1つ1つがそれとはわからないほどで、ガルバナムの欠片が感じ取れるくらいです。教会の中には様々なものがあるわけで、それらが静かに燃えていく。その静かな悲しみが凝縮されたような穏やかなウッディノートへとつながっていきます。シプレというほどシプレではなく、タールの持続もパワフルではなく、フランキンセンスも軸ではありません。とても繊細な調香で、1つ1つの香りがわからず、1つの形となって広がり、やがては少しレザーっぽいウッディムスクとなって落ち着きます。華やかでも可愛らしくもなく、そこにあるのは静かで穏やかな香り。タールのスモーキーノートは弱いながらも持続をしますので、燃え残りをイメージさせるには十分だと思います。

ノートルダムを人間に例えたら、全身が燃え、内臓から血が水と共に滴り落ちる。そんな強烈なイメージを持ったよう。収益の一部は彼のように教会音楽を束ねているMusique Sacree Associationへ寄付されるそう。(26/05/2021)


■Epicentro (2019年)

Delire de Voyageという新たなラインの最初の香りは、2016年、2017年に群発地震の被害を受けたボローニャの田舎町に捧げるものに。五感で感じて欲しいというその香りは、

「思い出、大切なもの、不安、恐怖・・・揺れる大地の上を、埃にまみれて避難する。視界はぼやけ。目や喉が埃にまみれていく中で見つけた小さな光。」

 

 

絶望の中から見えてきた、希望の光が焦点になっているようです。日本人にとっては思い起こしたくない記憶になってしまっているかもしれませんが、復興への祈りという希望に満ちたものだとお考え下さい。調香は明らかにされていないのですが、一瞬で記憶に刻まれた香りは、石と石がぶつかり合い、火花を散らしているというものでした。おそらくメタリックな香料、土っぽいウッディノート、アンバーグリスノートにカラムスのような少しグリーン系のトーンをトップに配置してあるのではないかと思います。精油だけでなく、合成香料がないと表現出来ない世界。タイトルは震源地の真上にある震央を意味するイタリア語です。ボトルは異様に大きなボックスに入っており、重厚感のあるボトルキャップと同じでありながら、とても軽いアクセサリーが一緒に入っています。もちろんそれはアクセサリーデザイナーでもある彼のクリエーション。彼の世界観を楽しみたい人は存分に楽しめるはずで。

 

 

少し驚かされたのは、ちょうど肌に香りを乗せてレヴューをまとめていた時に、久しぶりに体感地震があったから。震度1という小さなものでしたが、ハッとさせられました。(10/05/2019)

 

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