ジャコウジカの雄の下腹部にある包皮腺、および包皮腺から発する匂いをムスクと言います。ジャコウジカは交尾期が近づくと、特有の香りを出してメスを惹き付けます。麝香の生の匂いは強烈で、たとえて言うならば猫のおしっこを数十倍濃縮した感じと言われていますが、実物は驚くほどキツイ香りではありません。そのままずっと香っていても比較的平気な臭さですきっと乾燥したムスクだったからなのでしょうね。マーキングとして匂いを残すわけですから、かなり強烈なのだと想像出来ます。製法としては、エチルアルコールで抽出したチンキと、粉末をベンゼン、エーテル系で抽出したアブソリュートと2種あります。現在、中国で繁殖に成功しているそうですが、ワシントン条約で定められているために原産地の証明なくして香料の輸入は禁止されています。国内生産で天然のムスクを使用したものはない、ということです。

古くから、不老長寿の薬として珍重されてきた麝香は、香りで相手が自分にふさわしいかどうかを判断していることから媚薬（ほれ薬）としても使われることが多かったようです。また、イスラムの寺院では、建立の際に壁土に大量のムスクを混ぜて塗りこんだために、夕陽を浴びて香りだす、という寺院もあるようです。

ムスク自体の香りは確かにアニマリックなのですが、軽い獣臭でペットを飼っていらっしゃる方ならば平気な香りです。ペットの檻の中の香り、という表現が良いのかな。決して良い香りではないのですが、ジャスミン等を加えると不思議と深みを感じます。天然香料のアニマルムスクは香水に使用されていることはほとんどないと思いますが、このブランドでは実際に使用しています。現にこうして存在しているのですから。調香師のSalaam Attar氏はこのムスクをやはり中国で購入してきたと言っていました。実際に産地へ出向いた限られた人間だけが手に出来る貴重なアニマルノートです。

アラビア系のパフュームオイルにはムスクを初めとしたアニマル系が多く出ていますが、疑わしいものが多いですので要注意。ムスクの代用品として使用されているのはタチアオイ科の植物で「アンブレットシード」と言います。でも、こちらの精油も高価なんですよね・・・。

(17/11/2007)