2013年、彗星のように登場したアラブ首長国連邦発のパフューマリー。創設されたのは2010年5月10日だそうですが、2013年3月に香りがお披露目となりました。6つの香りでデビューしたのですが、香り作りに3年かかったというのです。(3年かけて調香を学んでいたそうですよ)創設者はDhaher Bin Dhaherで、ブランド名のトーラとは1833年から1956年まで(メートル法の制定まで)使われていた重さの単位で、11.66gのインドルピーが1トーラでした。それがやがて金や貴金属など貴重で高価なものの単位として用いられることになったそうです。彼は香水をそういうものだと考えたんでしょうね。

彼がパフューマリーを始めたきっかけは彼の母にあり、母が他の首長国の人々同様に、自身でパフュームオイルを混ぜて手作りしていたそうです。特に、Bukhoorと呼ばれるウードのインセンスを作るために。子どもの頃から彼は香りに対する興味が高く、年々それが強まり、香料を探して世界中を旅するまでになりました。次第に彼が母や姉妹と共にオイルやハーブを混ぜてBukhoorを手作りしていた頃の記憶を香りとして再現し、世界中の人々と共有したい・・・そう考えたのが創作のはじまりとのこと。

喧騒に包まれたインドはジャイプールの貿易商が、売主におつりとしてルピー銀貨を渡しました。その売主はドバイへ旅行をした際、光るそのコインを失くしてしまいます。そのコインを拾ったのは若い女性で、着ていたローブで輝くコインを隠し、母の元へと帰ります。家路に着くと、bukhoorを作る時間でした。伝統的な製法に則り、ウードチップをフレグランスオイルに浸し、混ぜていきます。樹の樹脂、アンバーグリス、ムスク、サンダルウッド・・・その他にも自然な成分たちを次々と。bukhoorを作りながら、娘は母にコインの話をするのです。このコインは、とても不思議な旅をしてきたのだと。

そんなストーリーを背景に生まれた6つの香りたちが、旅行と記憶をテーマにThe Voyage Collectionとして作られました。45mlのEdPが225ユーロ/198ポンド(約3万円)ととても高価で、詰め替え可能なシルバーの美しいパフュームオイルもあります。彼はムエットをとても独創的に使用していたのが印象的だったのですが、アラビアのコーヒーカップの内側にムエットを仕込み、コーヒーカップを香るようにして香るようにしていたのです。パフュームオイルの詰め替え方もとても面白く、手にした方でないと分かりづらい仕組みとなっていました。まだスタートしたばかりのブランドですが、あっという間に世界展開を果たしています。展示会での彼のブースは休む間もないほどの人気でしたからね。

ウードを組み込みつつも、ウードに決して頼らないスタイルで、中東というよりも何故かインドっぽいイメージのものが多いのも特徴の1つだと思います。(14/11/2013)

昨年は偶然にもレストランでニアミスし、翌日には展示会に道すがらで遭遇するというご縁を感じましたが、今年もしっかり彼にお会いしてきました。今年はアラブで飲まれているコーヒーをデーツと共にいただいたのですが、コーヒーがとても浅煎りで且つスパイシーで驚きました。カルダモンがかなり入っているようです。展示会ではカンボジア産のウードオイルを隠し持っていて、こっそり肌に乗せてくれたのですが、かなりアニマリックで強烈な香りでした。ゆっくりと、でも着実に販路を広げていて、とても好感のもてるブランドです。(24/09/2015)