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■最初から不安だったチェンナイ

早朝のフライトということで、朝食も早々に空港へ向かい、あっという間に搭乗となりました。エアインディアは、遅延も多いし欠航も多いということで、2時間以内に離陸すれば優秀だと言われていたりする航空会社なのですが、僕らの行程の中では大きく遅れることなく離陸し、とてもスムーズな旅となりました。ラクナウからデリーまでは1時間、そこで乗り換えてチェンナイに向かうわけですが、その乗継がびっくりするような状態だったのです。

タラップを降り、隣の機体に移動するだけ!!

駅のホームを移動するよりも簡単で、5分とかからず乗継が完了してしまったのです。これほど簡単な乗継はかつて体験したことがないほど。そこからは2時間半ほどのフライトで南インドに到着しました。ちょうど今、南インドのあちこちで熱中症による死者が1,800人を超えたとニュースになっていますが、5月が一番の酷暑期。その中でも北インドより南の方が気温が低めで案外過ごしやすいのでは? なんて思っていたのですが、空港についた瞬間、湿度の違いに気づきました。チェンナイは海が近いということもあるのかもしれませんが、日本のようなジメジメとした暑さが肌にまとわりつきます。

 

 

フライトが予定通りだったため、そのまま視察に出かけることになりました。いよいよチュベローズだよね、と車に乗り込んでわくわくしていた僕らに、ムーサが告げた一言は、チュベローズは見れないよ・・・というもの。話が違うじゃないかと語気を強めると、チュベローズの花期は11、12月だと言うのです。しかも、畑へは3、4時間かかるのだと。数か月も前からチュベローズの畑と蒸留所の見学をお願いし、チュベローズのためにわざわざ南インド、しかもムーサが指定してきたチェンナイまで来たというのに、それはいかがなものか。

でも、彼らに悪気はなく、ただただ、不慣れなだけ。適当に済ませてしまうこと、昨日はOKだったものが翌日NGになることなんてしょっちゅうあるというインドに於いては、そんな口約束は絶対守るべき内容ではなかったのでしょう。蒸留所さえ見られたら・・・と出かけた蒸留所にサンバックジャスミンの小さな畑がありました。えー、もうサンバックジャスミンはいいよ・・・と思いながら中に入ります。

 

 

中で行われていたのはサンバックジャスミンの蒸留。ヘキサンを使用した溶剤抽出で、24時間かけて抽出するそうです。でも、もう蒸留されてしまっているので肝心な花を見ることが出来ません。蒸留工場に出かけて、「集積された花を見たい」「窯に入れる様子を見たい」と細かく説明していなかったのも原因ですので、それは仕方ないかと思いつつ蒸留釜を覗いてみると・・・

 

 

わぁ・・・確かに中にサンバックジャスミンがたくさん入っています。ヘキサンに浸かってしまったため、量が減っていますが、仕組みがわかるものになっていました。

 

 

溶剤抽出はこの籠の中に花を入れ、それを何層にも重ねて蒸留していくのです。撹拌しながら。

 

 

それが入っているのがこちらの窯。3つも使用していますが、全てがサンバックジャスミンでした。違う花を蒸留する時は掃除が大変だなぁ・・・なんて。

 

 

彼らの敷地内には花がありました。それも蒸留した後の花。色が違うのですが、日々変化していくのでしょう。これがあることこそ、彼らの香料が本物である証なわけですよね。この花たちはこの後堆肥として畑に戻されるそうです。最後まで無駄にはしないよ、ということなんですね。でも、どうしても集積された花が見たいとワガママを言うと、明日はお祭りがあってそこで使うから花が高値になってしまうのだと返答がありました。自社の契約農家以外に、そういう花農家とのやり取りがあるんですね。花は様々な形でインドを彩るアイテムなのですから。

 

 

チュベローズが見られないことに肩を落としていた僕に、最後に見せてくれたのは、抽出されたばかりのサンバックジャスミンアブソリュート。プラスティックのケースに入ったそれは、とんでもなく良い香りでしたよ。生花の良さを存分に感じさせてくれつつ、アブソリュートらしい深み、酸味を伴うものでした。マダムはこのアブソリュートを直接卸価格でお買い上げ。僕は後日他の香料と共に注文することにしました。

 

 

チェンナイの視察がこれだけで終わるのは寂しいけれど、母国語ではない言語同士の意思の疎通がうまくいかなかったことに、詰めの甘さも加わり、このような結果となってしまいましたが、チュベローズの季節にまた来たらいいだけのこと。そう決めて、その夜はホテルでゆっくりと休むことにしたのです。翌日は、チェンナイの市内観光が待っていたから。ムーサは翌朝の便でラクナウに戻る予定だったのですが、もっと一緒にいたいと自身でキャンセルをして一日後の便を予約したそうです。契約につながらないからなのか、単純に興味の問題だったのか定かではありませんが、我ら4人がとても仲良くなっていたことは確かです。

 

 

疲れもたまりつつあったため、遅い朝食に遅い出発でリラックス。せっかくだから、とマダムも僕もラクナウで購入したチカン刺繍の服を着てロビーに集合したのですが、ロビーでスタッフと会話しているムーサの話が終わりません。時間があるからいいや、とのんびりしていたらなんと今からチュベローズの畑に行くと言うではありませんか。僕が散々文句を言い、残念がっていたこともあり、何とかして畑が見られないか、と夜中探してくれたようなのです。買い物用の服を着て畑に行くなんて・・・とも思ったのですが、チェンナイ郊外にある村に着いたら、現地の人々の中に溶け込めそうなスタイルだったのだ、と後で気づきました。

途中で豪雨があり、足元や天候を心配しながらたどり着いた村は、それはもう完全なインドの田舎でした。山羊を連れた若者が通る道。山羊だって自由気ままな散歩の様子。

 

 

この村の地域もサンバックジャスミンの農家が多く、辺りは一面サンバックジャスミンが植えられていました。どこまでも続く畑。でも、花は開花前に摘んでしまうため風は香りません。

 

 

村人に畑を聞くも、どうやらとても車では行かれない場所にあることが判明しました。近くの村に車を止め、そこからぬかるんだあぜ道、山道を1km歩くというのですから、マダムは参加を断念し、村人とコミュニケーションを楽しむことに。何かあっては・・・とガイドのランジャンをマダムと共に残し、ムーサと彼のスタッフと共に村人の後を追って歩き続けていくと・・・

あった、あった、ありました!!! 僕がこの上の画像の距離から畑が分かったことを驚かれたのですが、花を知っていれば遠くからでもわかるもの。画像のヤシの木の奥にあるのがチュベローズ畑なのです。

 

 

ぐんぐんテンションが上がるチュベローズ畑。こちらは薄らと風の香る畑で、農家の方が摘んでくれた花を手に、香りをつかむように吸い込みます。あぁ、来てよかった!! この畑の足元は田んぼのようにドロドロで、サンダルを履いていて本当に良かったと思った瞬間でした。栽培に水が必要だというわけではなく、直前に降った豪雨が原因なのだと思います。

 

 

チュベローズの奥には案山子のいるサンバックジャスミンの畑もありました。途中には、ナス、唐辛子、ピーマン、キュウリ、ジャガイモなどの野菜の畑もありましたよ。

 

 

チュベローズだけではなく摘んでくれたサンバックジャスミン。こちらも抜群の香りが広がります。

 

 

このサンバックジャスミンはベトナムやタイも含め、広くアジアでこうしたガーランド(花輪)にして使われます。仏様にお供えすることもあれば、髪に飾ることもあるのですが、バンコクで見たものは針で糸を通すタイプだったのですが、こちらはなんと1つ1つを紐で結んでいくという、よりテクニックの必要な細かな仕事で出来ていました。この花もチュベローズもそうですが、摘んでからしばらく枯れません。それどころかかなりの時間香りを放つのです。このサンバックジャスミンは夕方になるとポンッと開花し、社内を素晴らしい芳香で満たしてくれました。もちろんチュベローズと共に。

 

 

チュベローズも園芸種にある八重咲きのものではなく、香料用に利用される一重のものです。香り自体このタイプの方が強香に感じるんですよね。そして植物自体も強いのではないかと。

 

 

観光をあきらめて出かけた畑は、十分に素晴らしい体験を与えてくれました。その花をマダムは髪に飾ってもらって。

 

 

村人の皆さんにもお礼を。こちらも観光客とは無縁な村だったようで、写真を撮るとなると人だかりができてしまいます。でも、優先されるのは長老。どうぞどうぞ、とパチリ。こういうところがツアーでは体験できない真のインドなんですよね。

 

 

余程中の良い人じゃないとあげないよ、というギフトをムーサから頂戴してしまいました。僕は精油のサンプルもいくつか頂いたのですが、持ち帰りたかったMittiのアッターがあって満足。楽しいセミナーを開催していかないと!!

 

 

デリーに向かうランジャン、カナウジに戻るムーサ、デリーから先に旅を続けるマダム、そしてスリランカに向かう僕。結果としては、笑顔の絶えない抜群に素敵な旅なりました。今回の旅を下見とし、ガイドのランジャンとカナウジ代表ということでムーサと共に、安心で安全な視察ツアーが組めるよう、新たに企画していきたいと思います。インドは広い。チュベローズの季節に合わせたら、また他の植物が見られるかもしれません。南インドにはたくさんのスパイスがありますし、北インドではフランキンセンスも採取、蒸留されているのですから。謎多きインド、予想以上にハードルの高かったインドですが、まだまだ視察の旅は続くことが決定したわけです。さぁ、次はインドのどこに?

(30/05/2015)

 

 

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