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■オレンジブロッサム農家を訪ねて

 

 

チュニジアはアフリカ大陸の中でも一番地中海に近い北部に位置しています。海の向こうはフランス、そして右上はイタリア。シチリア島のパレルモ空港から1時間ほどのフライトで到着します。いえ、僕らは12時間かけてフェリーでしたが。

今回、3月上旬から半ばにカンボジアへ出かけることが決定していたため、4月の展示会に出かけるかどうかをとても悩みました。ありがたいことに、多くの方からお誘いを頂くのですが、帰国してまた出国というのは結構しんどくて、そのためだけに行くのも・・・と思い悩んでいた時、チュニジア北部での精油の販売を行うという若い男性から連絡を頂いたのです。

これはチャンスと彼にいろいろ聞いてみると、チュニジアのオレンジブロッサムの蒸留は3月上旬から4月末までとのこと。でも、書籍を見ると3月〜5月とあるし、別のルートで確認をすると2月から3月末だといではないですか。取りあえず、航空券を予約するために、4月半ばの様子を現地に聞いてみることにしました。そう、産地に知り合いがいたことを思い出したのです。産地に住む彼が、農家に聞いて予測を立ててもらった結果、今年は3月上旬から4月いっぱいだろうとのこと。

ネロリの蒸留が見られて、且つ、様々なハーブの畑が見られるというのであれば、イタリアでの展示会の後にチュニジアに行くのも良いだろうと、旅支度を始めたのです。今回の旅の一行は4名。マダガスカルやインドにご一緒したマダムの他に2名が前日に追加となりました。それはフェリーでの偶然の出会い。ドイツ在住のアロマセラピストを目指しているご夫妻に声をかけられ、ご一緒されることになったのです。前日の予定の変更は大変でしたが、旅の出会いはそういうもの。マダムも僕も快く受け入れて旅はスタートしました。

 

 

早朝8時、チュニスを出発、一行が向かったのはハンマメットというリゾート地でした。そこで出迎えてくれたのは、オレンジブロッサムの花売りたちでした。1つ1つ細い竹ひごの先に花を結び、それらをひとまとめにしてオレンジブロッサムブーケを作って売っているのです。これがこのオレンジブロッサムエリア(ボン岬)の有名な商品だということを知っていましたから、まずはじめに出会えて感動。そして、素晴らしい芳香に感動。1つ1ディナール(55円)とのことなので、5つを購入しました。これだけあるとかなり香りが広がります。一瞬の豪華な楽しみといったところ。

 

 

ハンマメットは知り合いが住んでいる街で、ここからオレンジブロッサムの畑があるナブールという街までは10分程度だといいます。ところが、やはり旅にトラブルはつきもの。BIOコスメを手がけている会社の知り合いが、ちょうど今フランスにいると言うのです。全ては部下に託したから大丈夫だと。

しかし、この部下への連絡が全く伝わっていなかったのです。初日のこの滑り出しにがっくり肩を落としながらも、まずはカフェで連絡を待ちましょう。今日のこれからの予定をたて直しましょう、と。ここで雑談すること2時間。

 

 

らちが明かないため、市内観光に切り替えました。ハンマメットのメディナをくるりと散策。白とブルーのコントラストがとても美しいリゾート地。

 

 

香水瓶やパフュームオイルもあったけれど、どれもナチュラルではなく、合成香料をメインとしたものばかり。しかも、香水はほぼ全てが有名商品のコピーです。この国の文化レベルはまだまだこれから、という感じですよね。

 

 

どれだけ時間を無駄にしたのか、と思いながらもランチを食べましょう、と近くのファストフードに立ち寄ります。薄いパンを2つに切り、中身を乗せていきます。マヨネーズのありなし、チーズのありなし、いろいろと好みを聞いてトッピングしていき・・・

 

 

薄焼きにした卵(乗っているグリーンはイタリアンパセリでした)を切り分けて乗せて・・・

 

 

ホントにこれが一人前なのかと驚くほどのボリューム。このサンドイッチ1つでランチは終了です。辛みはハリッサを塗っただけというシンプルなものでしたが、特別美味しくもなく、不味くもないという見た目通りの素朴なものでしたよ。

 

 

8年間日本にいたというわりには日本語の拙いガイド曰く、15時に待ち合わせとなったと。蒸留で今は忙しいから邪魔は出来ないと言うのです。友人が手配してくれた情報と全く違うではないですか。蒸留所も蒸留そのものも見られるよう、2ヶ所にアポを取ってくれたと言っていたのに。結局、何も知らない知り合いの部下に翻弄される一日となりました。でも、そこで終わってはいけない・・・と、ガイドの力を借りて観光に出かけることに。ナブール周辺では、各家庭が蒸留器を有しており、自分たちの使う分の蒸留をしていて、その様子は観光客でも見ることが出来るというのです。ウェルカムなスタイルなんですね。

そこで、最初に見つけたご家庭。こちらでは、ペパーミント、ゼラニウムの蒸留をしていて、ちょうどこの日はゼラニウムを蒸留中でした。ご家庭の家の前には、こうしたフローラルウォーターが飾ってあるため、一目で分かるようになっています。

 

 

ゼラニウムはどこにあるの? 畑は広いの? と聞くと、昔は育てていたけれど、今ではシーズンになると市場で買うのだそう。オレンジブロッサムに関しては、高すぎて一般市民は蒸留できないとも。ネロリなんて買えないよ、って。市民のオイルには程遠いものなんですね、1kgの精油を得るのに1tの花が必要なんですから。ゼラニウムは良く見る日本のローズゼラニウムよりも葉が小さかったのですが、植物自体は強靭です。(この日の夜、水に挿したものを検疫チェックを受けて日本に持ち帰りましたが無事でした)

 

 

少し通りを行くと別のご家庭のものが。こんな掘っ立て小屋の中でも蒸留中です。昔は各家庭が行っていたけれど、今では作っている家庭から購入するのだそう。だから、こうして見せているんですね。

 

 

ちょっと陽に当たりすぎですが、香りはどれも抜群に良かったです。この中にはローズウォーターやオレンジブロッサムウォーターもありましたので、しっかりと香りをチェックしましたとも。

 

 

ゼラニウムはスチーム特有の香りを持ちながらも、そのものよりもフルーティーな香りが。よくよく見るとボトルの上部には油分があるではないですか。蒸留出来ている証拠ですよね。これを服用すると腹痛に効果があるのだそう。ゼラニウムウォーターは家庭に必ずある民間医薬品という感じです。オレンジブロッサムウォーターをお菓子や料理に使うことはとても有名ですよね。

 

 

ハーブウォーターを作るご家庭の訪問を終えた後、僕は道中にチラッとだけ見えた「人影」のことをガイドに説明しました。途中で、オレンジブロッサムの木に登っていた人が見えたのです。車内からチラッと見えただけだったのですが、あれは間違いなく収穫のはず。もし、帰り道にその人たちがいたら、立ち寄ってほしいと。すると、道からは見づらい場所で作業をしているご一家に会うことが出来ました。きちんとアポをするまで写真撮影はしないことを約束したのは、イスラムの女性への敬意です。アポなしで向かうなど言語道断、いくら笑顔で迎えてくれても、心中はただ迷惑なだけだと常日頃から事前の準備を大切にしている僕にとっては、もう申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、やはり見たかった光景が広がるとテンションが上がります。

 

 

果実と花は同時にある、という果実はシトラスだけなのでは?

 

 

ビターオレンジの花から水蒸気蒸留で得られた精油だけをネロリと呼びます。ですから、レモンネロリとか、柚子ネロリという言い方は間違いです。ネロリとはオイルの名称であり、シトラスの花の意味ではないからです。(だから、花はレモンブロッサム、柚子ブロッサム、オイルはレモンブロッサムオイルと呼びます)
予想していたより大きな花で、基本的には蕾のうちに摘み取ります。開花するとその瞬間から油分が飛んでしまうからです。

 

 

ビターオレンジの樹木の下にネットを敷き、そこにパラパラと落としていき、最後にこうして集めて収穫をしていきます。産地はどこでも同じ方法。

 

 

ビターオレンジは果実からビターオレンジオイルが、花からは手法によってオレンジブロッサムアブソリュートとネロリが、枝葉からはペティグレンという香料が得られます。しかし、農家は別ですよ。枝葉を収穫したら花は咲かないし、花を摘み取ってしまったら実がなりません。オレンジブロッサムの収穫は間引きではないのです。

 

 

落下した完熟のビターオレンジを手に取り、その果皮の香りもしっかりチェックし、記念撮影。みかんの花は日本でもたくさん産地がありますから見られますが、ビターオレンジとなると話は別。マーマレードにする程度で果汁は使わないそうです。だから、基本的に香料目的の農家ばかりなんですね。こうした地道な農家さんの仕事があって初めて精油を手に出来るのかと思うと感慨深くなります。

 

 

オレンジブロッサムの畑を見て感動した後、それでもまだ時間が余っていたため、ハンマメットのメディナにあるレストランで少しだけワインで乾杯を。初対面の我らはまだ話が尽きません。

 

 

15時に待ち合わせをして、連れて行ってもらった蒸留所に着いてみてびっくりでした。なんと蒸留は終わっていたのです。デモンストレーションしてくれると言っていたのに・・・。なんとこの蒸留所では10日前に終了したのだそう。あの・・・空っぽの蒸留所だけ見せてもらっても仕方がないんですけど・・・と、怒りすらこみあげてきます。申し訳なさそうにする彼らの顔を見ていてハッとしました。この人たちは、蒸留をしていたわけではなく、15時まで別の仕事をしていたのです。季節労働ですからね、蒸留は。だからその仕事が終わって駆けつけてくれたわけですよ、無償で。しかも、笑顔で。

 

 

こちらでは只今ゼラニウムの水蒸気蒸留中。だけど、ゼラニウムだったらもう見たし・・・とガックリ。でも一応、撮影して香りを確認して・・・と、肩を落としていた矢先、隣の蒸留所からステキな香りが・・・。そう、そこはオレンジブッロサムアブソリュートの蒸留と、僕も香ったことのないオレンジブロッサムウォーターアブソリュートの蒸留をしていたのです。ご存じでしたか? オレンジブロッサムウォーターからも香料が得られるんですよ!!

あまりの希少なそれらを蒸留していることを知り、フラワーワックスはあるのかと聞いたところ、驚きの事実が判明しました。

 

全てGuerlainの香料だったのです。

 

蒸留したものは、廃棄する花以外、残留物の全てが全てがGuerlainに納品されるのだそう。だから、サンプルも出せないと。漏れてくる空気ばかりを愛おしく香りながら、撮影禁止だったそこでずっと立ち尽くしていました。すると、1時間ほどで蒸留が終わるから、そうしたら香れるよ、とのこと。オレンジブロッサムウォーターアブソリュート初体験です。しかもGuerlain用の香料ですよ!!

 

 

蒸留待ちをしたのは初めてですが、取り出された液体は美しい琥珀色で、香りがネロリでもオレンジブロッサムアブソリュートでもありませんでした。蒸気を使用することもあり、香りはスチームアイロンの中にオレンジブロッサムウォーターとビターオレンジを入れた感じ。これを1枚だけムエットに付けてくれました。

 

 

この後、ネロリやこの工場で採取しているというアプリコットオイル(圧搾)などのサンプルを見せてもらい、最後に大きな感動が待っていた一日となったわけです。ネロリよりも希少で貴重な場面に立ち会えたのですから。

 

 

社名は明かせませんが、チュニジアでネロリオイルを製造している蒸留所はどこも政府が関与しているため、個人のアポイントメントでは訪れるのが難しいそうです。やはりどの国も良いものが見たければコネが必要だということですよね。いろいろな手違いがありましたが、最後は彼らに感謝をし、記念撮影をして終わりとなりました。彼らの中には、個人のラボを持っていて、精油の卸をしている人たちもいます。ご縁を繋いで繋いで、今年はたくさんの人に出会えた旅となりました。翌日は北部の街、ネフザの農園を訪ねることとなっています。

(05/05/2016)

 

 

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