*Log in
 *Log out
 *My account

| Top | Books | Topics | PMF | Q & A | Making | Essential | Perfumers |  PRESS |
  

Rauque - Perfumed Object - / ローク・パフュームド・オブジェクト


<香 調> フロリエンタル
<仕 様> ユニセックス
<容 量> 80ml
<濃 度> EDP

トップ
マッシュルーム、ヴァイオレットリーフ、パインタール、ミルラ、フランキンセンス、ブラックカラント、ナルシス、カシー(ファルネシアーナ)、アンブラローム
ミドル
ラスト



2023年発売。3つ目の香りはなんとChristopher Sheldrakeの調香で。ハスキーヴォイスというタイトルで、破裂寸前の身体の匂いという、なんともフェチな彼らしいテーマが香りに。

2021年1月。コロナ禍真っただ中だったパリで、息苦しい生活を余儀なくされていた彼は、世界から切り離され、人々とのつながりを断ち切られ、時間の感覚も麻痺していた中で、その中から逃れるために生まれた香り。その中で彼はガラス版を通して撮影することで被写体の輪郭をぼかし、こちらと向こう側、隔てられたもの(鑑賞者と制作者)、宙づりの構図から生まれた一連の写真を軸に、Serge LutensやChanelで腕を振るっているChristopher Sheldrakeとのコラボで生まれた香り。

 


(c) Roberto Greco

 

一連の写真を見ていると、このボトルのデザイン、表のタイトルの下に5本線、裏はタイトルの部分に8本の線が入っていて、こちら側と向こう側というガラス版を通したイメージで作られたものなのだと気づきます。横面格子窓のように。

Christopherと初めて会った日に、Robertoは幼少時代の思い出を話したそう。それは子どもの頃、夏季休暇(ヴァカンス)を過ごした南イタリアの親戚の家でのこと。清掃された馬小屋でいとこと遊んでいた時の思い出。親たちが昼寝から目覚め、彼らを海に連れて行くまでの間、馬小屋は凄い熱気に包まれ、窒息しそうなほどだった。でも、親たちが起きてしまうから静かにしていなくてはならない。半裸で汗だく。髪は額に張り付き、喉はしわがれ、軋む床から立ち上る湿気と、息苦しいシロッコの乾いた風。その独特の匂い、雰囲気に彼は高揚し、酔いしれたのだと。

 

 

香水以外に冊子がボックスの中に収められていて、その中に今回の制作に関する解説のようなものが書かれているのですが、それが何とも彼の人柄を感じさせるもので、メイキングのショートムービーを見ているようなストーリーとなっていました。後半は彼とChristopherのやり取り(往復書簡)なのですが、交換日記というかラブレターのように綴られているのです。また、ボックスにもボトルの背面にも、

 

by Roberto Greco & Christopher Sheldrake

 

と記されています。そのコラボの様子が、やり取りが記載されているのです。楽しすぎる。そして愛が溢れてこぼれ落ちている。

 

 

2022年4月9日、Christopherが完成品だよ、と最終バージョンを持ってきたとき、仕事をやり遂げた(作品を生みだした)穏やかな心地と、終わってしまった虚しさを感じた。きっとこれがマタニティブルーと呼ばれるものなのだろう。

現像依頼をしていた36枚の写真が入った封筒が届いたかどうかを確認する高揚感。撮影してから現像までの間に撮影したことを忘れてしまったものものあれば、逆に期待にわくわくするものもある。現像を待つ間の時間は、焦りにも似た強迫観念を感じることもある。でも、自問自答を繰り返しながら、目標に向かって邁進していく。その目標はよく変わるけれど。

Christopherからのサンプルを受け取った時、それをデスクの片隅に置き、数日間匂いを確認することを自制した。そうすることで熟成する時間を確保すると同時に、高揚感を鎮め、穏やかな気持ちで確認できるから、せっかちな自分には良いだろう。いぞ試す時になると、自分自身が自分の儀式の参加者となる。

Christopherからのフィードバックは身体を満たした。そしてそれらは自分が撮影した写真の意図を明確にしていくのに役立ち、伝えたいことが明確化されたのだ。自分の中の記憶と創造性が言葉となり、言葉が香りとなる。美しい芸術的な相互作用。私たちが作り上げたものに感動しています。そして、あなたの優しさと忍耐は才能に匹敵する。ありがとう、Christopher。

 

 

2022年4月12日。君は包み隠さず全てを話してくれたと思う。写真家と調香師の言葉によるイメージと香りの対話。感情や疑問が日ごとに増して、形を変え洗練された姿になっていく旅。

地中海のうだるような暑い夏、子どもたちが楽しく遊ぶ様子、草いきれ、オリーヴオイルを塗ったような輝く素肌。会話の旅をしながら私たちは革の匂い、家畜の匂い、ミモザやスミレなどの黄色い花の豊かな香りに魅了された。

挑発的でアニマリックな水仙、リコリスとマッシュルームの匂いがする樹木の涙、千年の時を超えたミルラと古代の血が加わって物語は完成した。この冒険を通じて対話の道しるべとなり、映像と物語をシェアしてくれたことに感謝します。ありがとう、Roberto。

 

 

Robertoの思い出の中から切り取られた場面は、「破裂寸前の身体の匂い」となり、それを表現していくことになりました。マッシュルーム農場のワックスだらけの地下室、アレッポ石鹸の生地、馬小屋の裏に残されたベタベタした革、牛の口輪、時代を感じる埃臭い日本のお香の箱、枯れ朽ちた花(これを上記のような画像にしました)、肉欲的に感じられる完熟を過ぎた果実。暑い馬小屋の中で経験した熱気で身体が膨らんでいくようなアイデアを伝えるために、隠しごともなく、禁じることもなく伝えた。奇抜なアイデアには危険な要素も多いけれど、Christopherは熟練の調香師なわけで、何も恐れることなくまとめてくれるから安心だ。

 

 

色褪せたソフビの人形のような辛子色のボトルからこぼれたのは、精油感の強いリッチなスパイシーフローラルでした。ChristopherはRobertoの記憶の中の風景を表現するのに、キーワードとなるいくつかの香料を使用しています。その1つがミモザも中でもクミン香を有するファルネシアーナ種のカシー(Cassie)という香料。そして少しアニマリックにも感じられるナルシス、容量を間違えると猫のマーキング臭や尿の匂いにも感じられるブラックカラント、レザーを彷彿とさせるスモーキーなタール、土っぽくてカビっぽい菌類のニュアンスをもつミルラなど、随所に意味合いが感じられるものが配されているのです。少しクミンを感じさせるファルネシアーナがヴァイオレットリーフのグリーンノートと共に弾けた後、ブラックカラントをアクセントとしたフロリエンタルへと変化していきます。アンブラロームはラブダナム調の香料なのですが、そのダークなトーンは最後まで強く香ることはなく、全てが1つの液体となってゆっくりと流れていきます。少し形は違うものの、ブラックカラントにクミンが重なる様子ががRochasFemmeのプラムにクミンという組み合わせを思わせ、そう言えばFemmeも肉感的なセクシーさと、熟れ過ぎた果肉のトロリとした腐敗寸前の匂いを思わせる瞬間があったことを思い出したのでした。彼の言う破裂寸前の身体の匂いとは、息がかすれて苦しくなった時のあのギリギリの陶酔感なのかもしれません。失神ゲームのように。

 

 

タールのスモーキーなトーンはトップから香ることなく後半からジワリと広がり始め、ハニー調のフローラルノートが土っぽく、砂嵐で見えづらくなるように霞んでいきます。ブラックカラントの酸味は僅かながら残り、ハニーフローラルのアクセントという役目を果たしながら消えていきます。とても個性的だけどクールでセクシー。彼の世界はとても抽象的で言葉や香りにしづらいものだと思うのですが、香りがあるとイメージが広がりやすく、書籍を読むように、映像を見るように楽しむことができるのです。

Rauqueは限定500個で、手元のボトルは465/500とサインがしてあります。Jovoy ParisとLuckyscentの2つの店舗のみで2023年11月より発売され、わずか4か月で完売となりました。2022年4月には香りが完成していたのに、発売が2023年11月となったのは、個展に合わせた都合だと思いますが、ボトルの選定やパッケージ、デザイン、その全てに目を光らせていたことでしょう。2年の月日をかけたのに(大変な仕事だったのに)一瞬で消えてしまったと、嬉しいけれど少し早すぎたと感じたようです。世界が彼の才能に気づいてしまったPerfumed Objectとなりました。

(21/05/2024)

 

<Roberto Greco Topへ戻る>

profice〜香水のポータルサイト〜