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Sampleレヴュー

■Lascia ch’io pianga (2022年)

UNUM11番目の香りはヘンデルによる歌劇リナルドのアリア、「私を泣かせてください」(涙の流れるがままに)をタイトルとした自由への賛美に。ボトルに描かれた線は流れ落ちる涙で、それが旋律となる、というもの。それが自由への欲望を生むと。

エルサレムの解放を描いた劇中で、敵の魔術師に捕らわれた女性が恋人を想い、悲運を嘆くシーンで歌われるもの。そこだけを切り取るとフィリッポの描いたテーマとは少し違ってくる気がしますが、フィリッポは「自由を強く願う涙のように流れ落ちる音楽」だとしています。人々は日常的に様々なものに捉われている。近年のルッキズムにも象徴されるものですが、様々な先入観や固定観念から解放され、自由になった時にこそ、人間らしくいられる。間違いを犯し、失敗して初めて自由の大切さを知る。その過程を彼はエメラルドの香りのする(緑の大地)道を進むとしています。香りはその先で顔を温かく包み込む光となって表現されました。

 

 

(c)Filipo Sorcinelli official

 

 

トップ:ライラック、ジャスミン、ガーデニア、イランイラン、アイリス
ミドル:チュベローズ、カーネーション
ベース:トルーバルサム、ムスク

香りは彼のラインの中では一番フェミニンなホワイトグリーンフローラルとなりました。それはまるでウエディングブーケのよう。トップではハニーグリーンフローラルなライラックが弾け、追うようにラクトニックなチュベローズが重なります。チュベローズのラクトニックな部分をフローラル調にしていくジャスミン。ハニーノートとココナッツだけでなく、フローラルと共にさえるバルサムとムスク。ベースノートは主張せず、最後はチュベローズムスクが肌に残ります。強い光に包まれた後、ゆっくりと見えてくる祝福の瞬間のようなフローラルブーケです。エメラルドグリーンのボトルとなりましたが、エメラルドは再生のシンボルとされ、愛、幸福、希望などの意味を持つとされています。そうした意味合いも込められているのかもしれません。人々の幸せを願う、彼らしいスタイルですよね。(23/08/2023)


■Reliqvia (2021年)

ラテン語で「私は去る」という遺品の意味を持つ言葉がタイトルとなりました。キリスト教に於いては、遺体の一部、遺品、母、殉教者や成人の遺骨、イエスキリストが触れた全てのものを意味しています。つまりは聖遺物です。彼が暮らす街の近くにあるSenigallia(マルケ地方の海沿いにある小さな街)にはLa Chiesa della Croce di Senigalliaという教会があり、彼はそこでオルガニストと芸術監督を務めています。そこには聖遺物(聖母マリアとマギのマント)が保管されており、一年に一度公開されるそう。彼はその教会に敬意を表し、バロック様式のレリーフで飾られた教会の防腐処理された木製の壁をキャップにし、釘を打ち込んだのでした。

 

 

 

聖遺物は受難の傷跡であり、聖遺物に触れること、聖遺物が触れたものに触れることはキリスト教徒にとって恵みであり、聖遺物の前では精神障害が癒され、憑き物が落ち、全盲者の視力が戻り、足の不自由な者が再び歩き始めた。

トップ:エレミ、スイートオレンジ、ブラックカラント、ナツメグ、スモーキーノート、タバコ
ミドル:オレンジブロッサム、パインニードル、クローヴ、マスティック、アミリスウッド
ベース:パチョリ、フランキンセンス、カシミアウッド、ガイヤックウッド、サンダルウッド

年に一度公開される聖遺物。それまで完全な状態で保管されていることから、彼はクローゼットを開けた時の匂いとして表現しました。とてもスパイシーなトップからスモーキーなウッディノートへと落ち着く香りで、スパイス強めの玉手箱のよう。開けた瞬間にぶわっと広がるのです。そして霧が晴れるように静かに奥にあるものが見えてくる。それが少しクミンを感じるドライなウッディノートなのです。力強いオリエンタルな残り香ではなく、男性肌のようなスパイシーウッディフランキンセンスが残り、CdGを彷彿とさせます。この香りが、コロナ禍の中でも膨大な死者を出したイタリアで、彼が手がけていたのかと思うと、とても感慨深い香りに感じられます。(22/08/2023)


■Scusami (2020年)

謝罪をタイトルとしたUNUMラインの香り。謝罪というと分かりにくいのですが、「赦しを請うこと」と考えると、キリスト教にとても縁深い彼らしいタイトルであることがわかります。「許す」は希望や要求を許可することですが、「赦す」は罪をなかったことにする意味。イエスキリストを信じる者たちは、罪の赦しが受けられる。赦しを請うことを忘れるなかれ(自らの罪を認め、悔い改めなさい)。赦して下さい(ごめんなさい)、と。

 

 

トップ:プラム、レモン、ベルガモット、ヘリオトロープ、グレープフルーツ
ミドル:カシス、イランイラン、フリージア、ロイヤルアイス、スズラン、ローズ
ベース:アンバー、アンブレット、サンダルウッド、パチョリ、シダーウッド、フルーティームスク

香りはキリスト教のイメージではなく、可愛らしいフルーティーフローラルで始まります。カシスとグレープフルーツは共にビターなノートを有している相性の良いフルーツの組み合わせで、そのビターなフルーツにプラムが重なり、可愛らしくスタートするのです。それは赦しを請われた側の(つまりはキリストの)、相手を赦す心の広さ、温かさを表現したものなのか、じわりじわりとスイートフルーティーフローラルムスクへと変化していきます。ウッディノートやオリエンタルさは強くはなく、そこにあるのは優しい温もりの香り。

キリスト教はとても奥が深く、聖書が各国語に翻訳された段階で様々な言葉に置き換えられ、少しずつ変化しています。だから、理解の及ばない部分が多く、数年をかけて学ばないと根本的な理解にはたどり着かない。フィリッポは神学校でそこを極めたわけで、彼にとっての赦しを請う行為がこの香りとなったのです。香りの謎解きのようですよね。(21/08/2023)


■Tu Es Petrus (2022年)

90年代にヴァチカンで人気があった香りの追体験として作られたローマ店の限定品。最初は神学校の学生として、その後はオルガニストとしてヴァチカンにいたフィリッポにとって、誰もが使っていた香りの思い出だそうで、どこでもこの香りがしていたそう。タイトルはマタイの福音書16:18の中の一節、

 

Tu es Petrus et super hanc petram aedificabo ecclesiam meam
汝の名はペトロ。我はこの岩の上に我が教会を建てん

 

ペトロという名前はラテン語で岩という意味も持つようです。フランス人に多いPierreという名前もペトラのフランス語版ですので、聖なる由来が多いことがわかります。

 

 

トップ:ベルガモット、マンダリン
ミドル:ジャスミン、シダーウッド、デューフルーツ
ベース:バニラ、トンカビーン、パチョリ、ムスク

最初、クミンのような男性肌の香りに感じていたのですが、それはトロピカルフルーツのビターな香りと共に広がります。マンゴーやジャックフルーツ、パッションフルーツのようなトロピカルフルーツはどこか苦味を持っているのですが、そのビターなフルーティーさが男性肌の香りとして広がるのです。系統は違うけれど、メンズの香りなのにフルーティーでセクシーなHanae MoriのHMを思い出してしまいました。スイートフローラルムスクをウッディノートが支え、そこに少しクセのあるフルーティーさが重なっているというもので、決してクミンが強いわけではなく、男性的すぎるわけでもなく、セクシーに広がっていくのです。ローマ店でしか試すことのできない香りですが、コロナ禍が落ち着き、ローマに旅する機会があれば、是非ともお立ち寄りの上でお試しいただきたい香りです。(15/08/2022)

 

 

■Io Non Ho Mani Che Mi Accarezzino il Volto (2017年)

何とも長いタイトルですが、Mario Giacomelliというフォトグラファーのプロジェクトにインスパイアされたもので、そのタイトルがそのまま香水のタイトルに。もともとは神父の言葉だそうで、意味は、「私には自分の顔を愛撫する手がない」。彼の写真もモノクロですが、マリオもまたモノクロで、神学校で撮影した輪になって踊る様子となっています。これは、1961年に彼が発表した「若き司祭たち」というシリーズの写真なのですが、喫煙しているところを撮影された司祭は、それが理由で破門となってしまったのだとか。

 

 

トップ:ペティグレン、ベルガモット、ガルバナム、ミルラ
ミドル:シダーウッド、ゼラニウム、クラリセージ、シナモンリーフ、スティラックス、イランイラン
ベース:フランキンセンス、ベンゾイン、トンカビーン、タバコアブソリュート、アンブロキサン、サンダルウッド

ガルバナムにミルラ? と一見不思議な組み合わせですが、香りはシナモンの効いた少しスモーキーなウッディオリエンタルです。トップでは香ばしいスパイスにガルバナムが混じって香り、ガルバナムがこんなユニークな香りになるんだ・・・と驚いた瞬間、香りは全てシナモンに包まれていくのです。シナモンから次第に変化していくのをチェックしてみても、結構しっかりとシナモンが居座り、その奥にあるフランキンセンスやタバコなどがあまり前には出てきません。彼の撮影した写真にはぴったりのモノクロ感を感じられる香りなのですが、もう少しいろいろなエッセンスが香っていた方が楽しかったかな、と。

 

 

シナモンを用いて黒色を表現した香りと言えば、Serge LutensのSerge Noirがありますが、こちらはもっと落ち着いた物静かなトーンの香りです。そのあたりも修道士っぽいのかも。ボトルキャップには修道士の踊る裾をイメージした黒色のレザーが取り付けられており、ボトルには修道士がそのまま描かれています。テーマも香りも、全てがフィリッポというフィルターを通して作られた感じが伝わり、嬉しくなります。アーティストそのものですよね。(14/04/2017)


■Symphonie Passion (2016年)

オルガン奏者である彼にとって、音というもの、音楽というものはどういったものなのか、言葉で伝える代わりに香りにしたというもの。自然界には様々な音があり、静であり動であり、彼にとっては言葉のようなものだと。

 

 

トップ:ピオニー、レモン
ミドル:カシュメラン、ベチバー
ベース:サンダルウッド、ムスク、シダーウッド

香りは、ベチバーを軸としたウッディムスクとなっています。とても肌馴染みの良い柔らかなウッディノートで、ベチバーのスモーキーなテイストがムスクで丸められ、穏やかな表情となって肌に染み込んでいくのです。ピオニーの要素は全く感じられないのですが、ひょっとしたら微かにピオニー系の香料を単品で1つ入れているのかもしれません。でもウッディムスクの圧勝で、全てが1つとなってゆっくりと広がっていくのです。この穏やかさはムスクだけではなくパルファム濃度だということも理由の1つだと思いますが、彼にとってのシンフォニーは、自然の中で感じるこういった穏やかなものなのかもしれません。(13/05/2016)


■Ennui Noir (2016年)

目を閉じて深い倦怠感の中に沈んでいく瞑想の黒。アンニュイな黒は霧のように全てを包み込み1つとなる・・・。彼が撮影する写真は全てモノクロであり、彼は白と黒であることにとても強いこだわりをもっています。彼にとっての黒は、ダークなサイドではあるけれど、始まりでもあり、明るい希望も含んでいる、と。暗い中だからこそ微かな灯りも見えるというような感覚かもしれません。

 

 

トップ:ラベンダー、マートル
ミドル:シダーウッド、ヘリオトロープ
ベース:パチョリ、バニラ、ベチバー

とてもユニークな香りです。パチョリを軸としながら柔らかで微かにアロマティックなニュアンスをもった黒い霧のようなイメージの香り。パチョリにバニラとヘリオトロープを重ね、ウッディノートでアクセントを付けたもので、ラベンダーは強く香るほどではありません。僕はオリジナルとして柔らかな黒に包まれるイメージの「ラストダンスは私に」という香りを作りましたが、そのニュアンスに似ていて、そこからワインを抜いてパチョリを強化したような香りとなっています。特に近年大ヒットしているパチョリ系ウッディノートの香料クリアウッドを多めに使用しているのも特徴で、パチョリのニュアンスがとても長く持続しています。(13/05/2016)

 



■Rosa Nigra (2015年)

Opus 1144のベースを引き継いだ言わばツインの片割れ。黒色ローズという意味のタイトルですが、ローズではなくゴシック建築の香る石を意味しているようです。

トップ:ピーチ、アルテミジア
ミドル:フリージア、アイリス、ローズ、ヴァイオレット
ベース:カシミアウッド、アンバー、ムスク、サンダルウッド、バニラ

共通ベースを持ちながらもこちらはとても可愛らしいニュアンスを含んだフルーティーフローラルウッディといったところ。ピーチはトップからラストまで香りますが、ココナッツ系の甘さが少なく、とてもさっぱりとしたフルーティーフローラルで始まります。さっぱりしつつも爽やかではないのは高濃度だからでしょう。香りは時間と共に少しウッディノートが見え隠れするようになり、やがてはウッディムスクへと変化して落ち着きます。トップこそ女性的ですが、ミドル以降はユニセックスな雰囲気になりますので、男性でも使えない香りではありません。(11/12/2015)


■Opus 1144 (2015年)

彼の愛するゴシックへのオマージュ。1144年に建築されたパリ郊外にあるサンドニ修道院が、現存する最古のゴシック建築だと言われていることからタイトルに1144が付けられています。ゴシック以前のロマネスク様式と比べると、格段に技術が進歩していて、ステンドグラスが美しく、複雑で緻密な装飾が可能となりました。

トップ:エレミ、ジャスミン、ベルガモット、マンダリン
ミドル:アイリス、オーキッド、カシミアウッド
ベース:ホワイトムスク、アンバーグリス、バニラ、レザー、サンダルウッド、ベンゾイン

トップでは、ジューシーなシトラスフルーツが弾け、明るい香りでしたが、香はすぐにクマリン調のパウダリーなフローラルへと変化し、少しオポポナックスベースのようなニュアンスとなって落ち着きます。どこかでShalimarに通じる香りだと読みましたが、それはこのベースをGuerlainっぽいオポポナックスベースだと感じているからでしょう。確かにとても良く似ていますから。Extrait de Parfumですが、ShalimarのパルファムではなくEdTをパルファムにしたような雰囲気で、最後はクマリンだけが印象的に残ります。(11/12/2015)

 

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