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■レユニオン島って知っていますか?

 

 

精油を学ぶ者にとっても、調香師にとっても芳香植物に関与する仕事であれば必ず耳にする島の名前、レユニオン島です。位置的にはマダガスカルの横にあるとても小さな島なのですが、今も昔もフランス領といういわば飛び地。その昔、ルイ14世治世の頃、この島を収めていた総督が、当時のブルボン王家に忠誠を誓い、その王家の名前を付けたのだろうという予測がとても容易に浮かぶ、ブルボン島として有名でした。ブルボンと名の付く香料は、バニラ、ベチバー、ゼラニウムが有名なのですが、今回はその中でもバニラとゼラニウムに焦点を当てたツアーとなっていました。

でも、これがまた大変。一度バンコクに出て、そこから10時間半かけてたどり着く島なのですから。しかも、機体が小さいため、一度インドのチェンナイに着陸し、給油してから飛び立つという途中立ち寄り(降機なし)ルートです。

 

 

レユニオン島に到着したのが夜で、全く様子がわからないままチェックインとなったのですが、5時間ほどでぐるりと一周できる程度の島だそう。バス路線が張り巡らされており、道もきちんと舗装してあります。そう、フランス領なのです。掘っ立て小屋に赤レンガ、ぬかるみに乗り合いバス・・・というアフリカそのものだったマダガスカルとは隣でありながら全く違う文化で、家々も別荘のようにオシャレで可愛らしい。スーパーマーケットだって大きくてしっかりしています。フランスを初め、ヨーロッパの人々にはとてもメジャーなリゾートだそうです。地図からも想像できるように、島の中心はかなり高く、火山島となっています。だから、中心に行くにつれて山を延々と上ることに・・・。

 

 

今回のツアーでは、バニラの研究所、農家、加工所と3か所を訪れる内容となっていました。最初に訪れたのはCiradというマダガスカルの横にあるマヨット島(Guerlainの香料で有名です)とレユニオン島で植物、特にバニラをメインに研究している施設でした。世界中にはなんと111種ものバニラの品種があるそうで、この施設ではその中で40種を栽培して研究しているのだとか。画像を見てもわかるかと思いますが、サイズも様相もバラバラです。

 

 

実は、マダガスカルに出かけた前の年に、個人で出かけようとマダガスカルに問い合わせをしていました。その際、バニラの花が見たいので、季節を教えて欲しいとお願いしたところ、9月〜12月がメインだとの回答だったため、あきらめた経緯がありました。今回、10月のツアーということで、ひょっとして・・・と期待していたのが画像のバニラオーキッドだったのです。花は午前中で終わってしまう短き命。植物園では高いところに咲いていて、花をじっくり眺めることも香ることもできないその貴重なバニラオーキッドに、ようやく巡り合えたのです。

でも、これ大きすぎないか?

 

 

研究所では様々な品種を交配しているようですが、こんな大きな花の品種があるとはびっくりでした。しかも、花たちは咲き始めたばかりのシーズン初旬。バニラの花って香りがあると思います? バニラには香りがあるのに、花にはない、というのが定説だったのですが、実はちゃんとあるんですよ。なんとそれはミントとアニス!! (となればそう、歯磨き粉のよう)

 

 

バニラは受粉が大変なことで知られています。広く知られていることですが、原産地のメキシコ以外では長い間、開花はするものの実らない時期が長く、その花の受粉については謎とされてきました。後にメキシコにはバニラの花を受粉させるための蜂がおり、それが他国にはいないため結実しないことが判明したわけですが、それを可能としたのは、レユニオン島の12歳の奴隷でした。彼が自身の手で受粉させたのです。少し変わったおしべとめしべの配置をしたこの花の受粉の実演をしてくれたのですが、知ってしまえば数秒で完成する受粉、でも数が多くて大変です。その後、バニラは鞘を伸ばし、緑の房が出来上がります。細いバナナのようですよね。

 

 

こちらはもっとバナナのよう・・・なのですが、バニラの香りがしないバニラです。そう、これもびっくり。多くの品種の全てが芳香を有するわけではなく、ごくごく限られた品種のみが香料用となるのです。大きく分けて3つ。原産地のメキシコタイプ、フレンチポリネシア(インドネシアやタヒチ)タイプ、そしてアフリカタイプです。

 

 

左のものがアフリカタイプ。右のものは巨大なタイプ・・・。(メキシコタイプとポリネシアンタイプは2つ下の画像の花の形をしています)

 

 

アフリカタイプは、よくよく実を見るとねじれているのがわかります。スクリュータイプの実になるのだそう。花の形は全く違いますが、香りは似ているんですよ。やっぱりミントにアニスを足したような香りを有していました。

 

 

一番メジャーなレユニオンの畑で栽培されているタイプはこちら。

 

 

鞘を放置するとこのように茶色くなりますが、実はグリーンのうちに収穫されます。

 

 

バニラの種類の多さに驚かされた後に訪れたのは農家でした。こちらの農家さんは4代続くバニラ農家さん。植え付けてから実るまでに4年かかり、収穫から出荷までさらに1年かかることから、新しく始める人たちがいないのだと語っています。(いや、ほとんどの果樹はそれくらいかかるだろうよ・・・とは突っ込めず)

 

 

彼女の畑では、天井に覆いをして遮光しています。そう、バニラは南国植物なので日光が大好きなイメージがあるかもしれませんが、実は樹木に巻き付いて育つ下草です。だから、直射日光は苦手なんですよね。(もちろん光は好きです)
島特産のサトウキビも栽培しているそうで、その搾りかすを肥料として下に敷いていました。こうした無駄にはしない仕組みというのは世界共通。

 

 

3つ目に訪れたのは加工工場。画像で加工の様子を見てみましょう。まずは収穫です。グリーンのうちに収穫していきます。その後、それらを65度のお湯に3分間つけて成長を止めます。その後、それらを箱に入れて蓋をします。

 

 

すると、緑から黄色へ、そしてやがて茶色に変色していきます。それらをまずは天日干し。天日干しをしてある程度水分が抜けてきたら、選別です。

 

 

基準としては、大きく長いものが最高級品に。小さくて細いものは、粉砕して加工品に。

 

 

この時点ではまだ完成品ではありませんよ。鞘が太く、乾燥しきっていません。

 

 

ある程度の大きさに揃えて品質を分け、更に日陰で1ヶ月ゆっくりと乾燥させていきます。

 

 

途中経過のこのバニラ、この時点でバニリンが出てきて甘い香りがするようになります。この作業をキュアリングと呼びます。この鞘の中に黒い小さな粒粒が入っているわけですよ。

 

 

一度にたくさん日陰干しするにはこうしたパレットが有効。

 

 

じっくりと時間をかけて干していくと、指に巻き付けられるほど柔らかくなっていきます。

 

 

そうした陰干しを経て乾燥がすっかり終了したところで、80度のお湯で3分殺菌を行い、更に乾燥させて完成となります。見覚えのあるバニラってこれですよね。途中でカビが生えたものや形の悪いもの。傷のものなどはラム酒に付けたバニラティンクチャーとして加工され、料理に使われます。その他、現地では中の種子だけを乾燥させ、パウダー状のものにしたものが売られていました。シュガーに混ぜたり、ちょっとしたスパイスに合わせたりするとスパイス風な使い方が出来そうです。

現地では、アブソリュートを行っていなかったのですが、細いものや傷のついた鞘がたくさん山積みになっていましたから、おそらく大手香料会社がそれらを買い上げ、自国に運んで処理しているのでしょう。レユニオン島よりも技術があるわけだし、施設も整っているわけだし。何よりも、完成したバニラは腐らないわけですから輸送も簡単です。

実際の蒸留の様子が見られなかったのは残念でしたが、理由を考えれば仕方のないこと。さらに欲を言えば、現地の方たちがどのようにバニラを食事に取り入れているのか・・・というのも知りたかったのですが、ランチやディナーで出てきたバニラアイスクリームはバニラビーンズを使用していない安物だったんですよ・・・。宿泊は島内に3つある五つ星ホテルのうちの1つだったのですが、食事は全体を通してあまり期待できるものではなかったのも残念にところ。でも、食事を期待して出かけた旅ではありませんからね!! バニラオーキッドを香り、キュアリングの様子を実際に見られて満足なバニラの旅でした。

(11/10/2016)

 

 

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