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■香水のすべて (2024年)
ジャンヌ・ドレ 原著/ジャンヌ・ドレ 監修/ジャンヌ・ドレ 編集/ジェレミー・ペロドー イラスト/新間 美也 翻訳/翔泳社/3,850円

2018年に発売されたフランスのNez(香りの専門誌)の書籍、Le Grand Livre du parfumが、1月29日より日本発売となります。翻訳は新間美也さん。

タイトルにあるように、香水にまつわる全ての事柄を、内部の人間にインタヴューしてまとめられた1冊で、天然香料、合成香料、嗅覚の仕組みや歴史のような初心者目線の内容から始まり、調香師の仕事内容に触れたか思うと、製造、流通、販売に至るまで網羅された、完全にファンと業界人向け、内部事情暴露な1冊となっています。販売価格の内訳、原価率なども公開されていたり、製造から流通までどのようになっているのか、どういう人たちが関わり、店頭に並ぶのか。フレグランスファンにとっては完全に裏側の世界を覗くことができる1冊であり、関係者であれば「そうそう、そうだよね」と納得の1冊なのです。高円寺でセミナーを開催していた時、初心者向けの内容の中で大手とニッチなマーケットの様々な違いを説明していたことを思い出しました。まさにそうした内容が丁寧に盛り込まれているのです。

この書籍を全て読むと、ブランド1つがどのように成り立っているのか、スタートするまでの流れがつかめると思います。また、アロマセラピストの皆さまにとっては、フレグランスとアロマブレンドがいかに違うものなのかも、ご理解いだたけるのではないかと思います。

本国フランスではベストセラーですが、アメリカでも人気で、満を持しての日本発売であり、絶版となればプレミア価格になりそうな書籍ですので、是非ご予約の上でお楽しみ下さい。オリジナルは40ユーロ、英語版(The Big Book Of Perfume)は45ドルなのに3,850円という、とても良心的な価格です。(19/01/2024)


■においと香りの表現辞典 (2019年)
神宮英夫/熊王康宏著/東京堂出版/2,800円

大人も子どもも同様に、匂いや香りを表現する語彙はとても貧弱で、「良い香り」以外は全て「臭い」という言葉で片づけられてしまいます。悪臭なのかというとそうではなくて、好きではない香りは全て臭いという言葉に置き換えられてしまうのです。香りを表現する言葉は、実に多種多様であり、嗅覚表現は触覚、聴覚、視覚、味覚とつながっています。この書籍はその部分をどのような言葉で表現しているのか、ということを様々な書籍や商品説明文から抜粋してまとめたもの。文章の前後をカットし、ただその部分だけを抜粋されたもので、そこに著者や編纂者の考察はありません。飽くまでも辞典というスタイルに徹しているのだと思いますが、「どうしてそうした言葉で表現されたのか」というもう一段深い理由の記載があると、読み手の理解が増したのではないかと思います。

後半には香料用語がまとめられているのですが、それだけであれば他にも専門書が発刊されています。様々な商品に関する、「香りのするもの」が含まれており、今までそれに香りがあったことなど気づいていなかったと感じられるのではないでしょうか。例えば、ウレタン臭やインコ臭、発泡スチロール臭など。執筆された皆さまがフレーバー関係の方たちのため、香水だけでなく食品やフレーバー製品も多くなっています。

断捨離が流行している現代において、買うか借りるかという二択になるとしたら、借りる方が良いでしょう。辞典という形になってはいますが、読み返して調べるような内容ではありません。学習として必要となるのであれば、1つ1つの「匂い」にご自身の感じた言葉で修飾語を付け加えていくようにすると、この書籍の中に記載されているような語彙が自然と増えていくことと思います。(11/06/2020)


■ワインを楽しむ58のアロマガイド (2012年)
ミカエル・モワッセフ、ピエール・カザマヨール著/原書房/2,200円

ワインソムリエの皆さんは、proficeオンラインショップで販売させていただいています「香る辞典」のような香料セットを使用し、香りを記憶していきます。ワインは味以外に香りの評価というのもとても重要視されており、それを言葉にして表現しなくてはならないのですが、やはり香水業界と同じであり、香料や実物を知らないと表現が出来ないのです。そう、プロとして活躍するには香料の知識が必須なのです。また、香水というのは多種多様に存在しますが、ワインは全てが葡萄から作られるため、香りがとても似通っていますから、香水よりももっと表現が難しい世界だと思います。

そんな香料の知識というものを、プロのためではなくもっとカジュアルにワイン好きな皆さんに知ってもらおう、というのがこちらの書籍で、ワインがいかにして作られるのか、ワイン特有の表現や仕組みなどを細かく説明してくれています。監修者の方が巻頭で語られていますが、日本人顧客に説明するのだから日本人的な感覚で表現しなくてはならないという意見が心に響きました。ワインの国、フランスと同じ表現では消費者に伝わらないですもんね。古くなったジビエの匂いと言われても想像が出来ませんし、何しろヨーロッパにはチーズの文化が強くその豊富な種類で香りを表現したりします。逆に日本で豊富なのはキノコ類の香りではないでしょうか。

前半では嗅覚とワインについて香りを軸に、後半は具体例として58種の香りについてまとめられているのですが、やはり香水ではありませんからそこまで徹底した記載ではありません。ジャスミンの項目もアロマセラピーや香水の書籍であれば学名別に分けますが、そこまで堅苦しい本格的なものではなく、ざっくりとまとめられています。ただ、いろいろと読んでいて気になったのは、アカシアの芳香成分にヒドロキシシトロネラールの記載があること。調合香料にはヒドロキシシトロネラールを使うことが多いのですが、生花の成分としては検出されることはありません。何故なら、自然界には存在しない成分だからです。著者の方たちはその事実を知らないのかもしれませんね。また、翻訳時ではなく原書のミスのようですが、カシスのページにブルーベリーの画像があり、ブルーベリーのページにブラックベリーの画像が・・・。

こちらの書籍を読んだからといって、香りの表現が上手くなるとは限りません。書籍中にはケミカルな成分名がいくつも登場していますが、具体的にその成分たちがどのような香りなのか、という説明はないからです。飽くまでも「ワインを説明するための58のアロマガイド」ではなく、読者の皆様がワインを楽しむための書籍なのです。ワインをただただ飲むのではなく、飲む前にしっかりと香ってみて、そこから何を感じたのか、その奥にある世界というのを押し広げてくれるような、味覚ではなく嗅覚からアプローチした1冊です。(15/05/2014)


■フォトグラフィー世界の香水 (2013年)
マリ・ベネディクト・ゴーティ著/原書房/3,570円

読む書籍と見る書籍とどちらに分類すべきか悩むほど、写真が美しく散りばめられた書籍です。著者の方自体は香水やビューティー業界の方ではないようですが、副題となっているように65種の歴史的な香りを、それらが作られた時代背景と共にまとめた、わかりやすい内容となっています。今や海外でもプレミア価格となってしまっている世界名香物語の少し簡易版と言う感じで、もっとさらりと読めますよ。画像の多さ、種類の豊富さでは世界名香物語よりも上回っており、内容が簡単になっている分だけ初心者にも優しくなっていますので、雑誌をめくるようにゆっくりと画像を楽しみながら1つ1つ想像する、という書籍ならではの醍醐味を味わえるはずです。

この書籍は、現代の香水までを網羅しており、Annick GoutalやSerge Lutensも取り上げられています。こうした名香系を集めた書籍というのはいろいろな形で発売されているものではありますが、こうしてバージョンアップして発売されると嬉しくなりますよね。

価格は少し高価に感じるかもしれませんが、原書は片手ではもてないほどの大版で、価格もかなり高めでした。「もっと小さなサイズで良いから安くしてよ!」という消費者の気持ちをストレートに汲んでつくられた気がして、とても好感が持てます。今回、出版するにあたって専門的な立場からの校正依頼を受け、原書や翻訳のミスをチェックしましたので、ある意味原書よりも細かな点でクオリティが高くなりました。読んだら、必ず香りたくなる1冊で、若い世代の皆さまには新たなバイブルとして、大人の皆さまには懐かしさと共に回顧しながら楽しめる1冊となるでしょう。 (01/02/2013)


■香りを創る、香りを売る (2012年)
塩野秀作著/ダイヤモンド社/1,500円

江戸時代後期の1804年創業という、なんと200年以上もの歴史ある老舗の香料会社の現社長が語るフレーバー & フレグランス業界の実情。proficeでも調香師についてまとめたページをアップしてから、調香師になりたいという方たちからのアクセスが急増しました。香りの文化が広がると共に、調香師という職業に興味を抱く若い世代が増えたことは、とても喜ばしいことです。しかし、なかなか香料会社の内情、実務というのはわかりませんよね。実際にどのような仕事をするの? 商品化までたどり着くには? どんな人が調香師になれるの? など、素朴な疑問を解決してくれています。また、本書前半、簡単な香料の歴史から始まり、社歴を時代背景から語る様子は、香料史としても貴重だと思います。

調香師になりたいという方の多くが女性で、香水を作りたいという方が圧倒的多数です。しかし、実際に香水を手がけている香料会社はごくわずかであり、そのほとんどが塩野香料のようにフレーバーとファブリック、トイレタリー系の調香を行っているのが実情です。もちろんそう簡単に社員は退職しませんから就職枠は狭き門であり、本書によると倍率はなんと100倍!! 弊社にも「なんとなく昔から調香師という職業に興味があった」という方からのご相談を受けたことがあるのですが、そんな憧れだけでは「何としてでもに調香師になるゾ」と奮闘している方には勝てないでしょう。運良く採用されたとしても、そこから長い訓練、修行期間を経てようやく自身が手がけられるようになるわけです。こちらにも表記をしましたが、技術職人の道に近道などないのです。センスももちろん大切なことですが、それ以上に膨大な知識と経験値が必要なのですから。

本書の中で1番共感したのは、イミテーション(模倣)が大切であり、再現能力は調香師としての最低スキルだということ。模倣1つ出来ずして、調香師を名乗るなかれ、です。はじめはガスクロ(分析器)の結果を基にするかもしれません、しかしプロの調香師はみな、自身の嗅覚で組み立て、再現します。僕だってそうです。proficeの模倣セミナーのレシピは全て1つ1つ時間をかけてレシピを組んでいるわけですから。

フレーバーと香水は扱う内容が全く違いますし、香水とトイレタリーでも全く違います。普段から香水に向き合い、多種多様な新作、旧作を研究している方でないと、時流に合わせた商品作りは難しいでしょう。セミナーでも良く口にするこの内容と、全く同様のことが書籍の中に記載されています。扱う内容は全く違いますが、作業の流れや仕事に向き合う姿勢はフレーバーも香水も同じで、「そうそう、やっぱり職業ってそういうものだよね」なんて大きく頷きながら読んでしまいました。1人前になるには長い道のりですし、たくさんの葛藤や挫折もあるでしょう。でも、物作りという職業には夢があります。これから調香師を目指したいという方は、是非ご一読頂きたい良書だと思います。 (31/01/2013)


■銀座物語 (1996年)
島森路子著/毎日新聞社/1,400円

「福原義春と資生堂文化」という副題が付いている通り、福原個人の評伝を軸として資生堂と銀座をまとめた1冊。創設者の福原信三が画家を目指してパリに留学していたことは有名ですが、それこそが薬局であった資生堂のポスターやビジュアルに活かされていたのだと知ると、その頃の製品作りや広告もまたじっくりと眺めたくなります。福原義春氏は幼少の頃から父の影響で植物に馴染み、様々な植物の写生を行い栽培をしていたそうですが、その中にすでに蘭があったんですね。毎年2月に東京ドームで開催される「世界らん展」に資生堂が企業参加していること、そして尋常でないほど蘭の香りを研究し尽力していることがつながっていきます。福原義春氏の幼少の頃、戦時中の資生堂の様子やアメリカに渡って奮闘した様子などはエッセイのような読み物として楽しく読み進められます。企業のトップに君臨する方というのは、やはり特有の個性を持っている場合が多いわけですが、彼もそういった片鱗を多々併せ持っていることが読み取れます。ただ、根底にあるのが自然への愛であり、植物を愛する心だということは、僕が植物に囲まれて育ち、自然と植物の香りに興味を持って香りの世界にのめり込んでしまった経緯と重なり、更に資生堂への愛情が増してしまいました。香りに特化した書籍ではありませんが、資生堂の歩んできた企業の裏側を福原義春という人物から描き出した書籍です。(28/11/2012)


■香の文化史 (2012年)
松原睦著/雄山閣/2,940円

「日本における沈香需要の歴史」という副題がついている通り、近年の香水業界で爆発的な世界的流行を生み出している沈香(ウード)についてまとめた1冊。日本の歴史の中では、現代まで続く香道文化の中で大切にされてきた樹木であり、偶然の産物でしかない沈香が、どのようにして日本文化に馴染んできたのか、そしてどのように愛されてきたのかが歴史を通じて丁寧に解説してあります。古来の呼び名など、どの言葉がどの香料に相当するのかなどは、研究者でないと紐解けない内容であり、興味深い記述もたくさん出てきます。特に、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3名がどのように愛したのか、どのような違いが歴史的な背景にあったのか、そして東南アジアからどのような経路で運ばれてきたのか等はメモを取りながら読み進めました。沈香の中でも最上級の伽羅は日本語の中にもたくさん使われ、様々な流行語を生み出したとか、それがどのような形で使われていたのか、当時を知る貴重な解説書だと思います。沈香の香りそのものについての記述はありませんので、芳香成分や特徴、他木との比較などはありませんが、上流階級から火が付いた流行が、やがて庶民にまで広がっていくという流行のながれというのは、いつの時代のも変わらないものなんですよね。ルビもしっかりありますし、スムーズに読めますので、沈香について知りたい方には良いと思います。3度、4度と繰り返し読むとバイブルになりそうなほど内容は濃く詰まっています。(27/11/2012)


■香水のレッスン (2011年)
田中貴子著/株式会社学研マーケティング/1,400円

熊本で香水の16区というショップを営む筆者による手引き書。基本的にビギナーのための手引き書ですが、視点が販売する側ですので、販売員の方の方が楽しめるのではないでしょうか。数少ない企業に属さない独立した日本人パフューマーの語る、販売員としてのノウハウをエピソードと共に語る、というもの。調香をしていると細かな香料名は把握できても、それをお客様に説明するわけにはいきません。相性の良さというのは香料の中の成分に根拠があったりするのですが、販売する側にはそういったことを租借して説明していくことが大切なのです。また、ショップで700種の香水を扱うこの方が、どのように顧客にフィットした香りを選ぶのかがエピソードと共に紹介されています。ただ、文中で残った香水の使い方として「殺菌効果がある」としていますが、殺菌効果はあまり期待できないはずです。香水に含まれるエタノールは濃度が高すぎて残留時間が短すぎて殺菌できないのです。(市販の消毒液は70%くらいにして、すぐに揮発しないようにしてあります)

とても気になったのは文中に出てくる「香りの診断シート」の中に血液型と星座が項目として存在していること。血液型占いは日本特有の文化で海外にはほぼありません。僕は血液型や星座で香水を選ばれたらちょっと引いてしまいます。全体を通して女性らしい女性特有目線で語られていますので、成分的な「学ぶ」という要素は少なく、さらりと読める軽いエッセイですので、普段書籍を読まない方にもおススメです。(05/01/2012)


■香りへの旅 (1975年)
中井英夫著/平凡社/550円

何とも表現しがたい書籍です。いわゆる指南書ではなく、旅行記のような軽い読み物でもなく、雑記のように香りへの愛、そう愛情が描かれている感じなのです。前半はParisのLanvinの工場を訪れたり、南仏はGrasseのMolinaedへ出かけたり、Jean Patouの調香師に会ったりと「香水」に魅せられて産地へ出向いてそれらを生み出した調香師たちの話を聞く・・・という豪華な旅の記述です。後半は日本の香道についての記述、巻末には「香りの植物園」がまとめられています。芳香性の植物だけを取り出して、香りについての記述だけを抜粋して編纂したものなのですが、あれもこれもそれも香りがあったのかと驚かされます。ただ、筆者は実物を香っておらず、飽くまでも編纂なのだとか・・・。

書籍全体のトーンとして感じるのは彼が繊細だということ。詩人テイストな表現が全編に見受けられますが、彼は成分には詳しくないけれど、独自の視点で香りを読み取っていたのです。香りというのはとても言葉にしづらい要素です。慣れた人でないと香りを上手く言葉にすることは出来ませんし、才能も必要だと思います。ところが彼は、香りから様々な風景を詩的表現で描いてくれたのです。詩的な表現は一般的に通じづらく、香りの表現としてはいかがなものかと思ったりもしますが、香りを1つ香ってそれだけのストーリーと風景が思い浮かんでくるのであれば、端的に表現出来る調香師よりもよっぽど香りそのものを楽しめていたのではないでしょうか。

調香体験セミナーを開催する中で、やはり香りについて上手く言葉に出来ずにいる方もいらっしゃいます。それは悪いことではなくとても自然なことです。フランス人を初めとした諸外国の人たちは強い香りの製品、食品に慣れていますが、日本人は生活全体の「香り」について排除したがります。強く香ることを忌み嫌い、香りそのものを表現することに不慣れなのですが、ワインやチーズの食文化圏ではそれぞれを語るために味覚や嗅覚を言葉に置き換えるのです。もし、日本人が(香道が身近だった頃のように)嗅覚を研ぎ澄ませ、それぞれに名前を付けるほど表現力に長けていたなら、もっともっと香水の文化の馴染みが早かったのではないでしょうか。語彙を増やすこと、それは表現力を豊かにすること。そしてそれは香りをよりよく楽しむことなのだと気づかせてくれた1冊です。 (05/01/2012)


■調香師日記 (2011年)
ジャンクロードエレナ著/原書房/1,900円

Journal d'un Parfumeurとして1月に発売された書籍が、発売から1年を待たずに翻訳されました。2009年10月より2010年10月まで、日記という形式を取って綴られた書籍で、書籍のために日記という形を取って書いたものです。当然ながら出来事日記ではなく、公開を前提とした読み手を考えての日記ですから、雑記ではなく香りに繋がるストーリーが読み手をぐっと引き寄せます。調香師だった父のこと、奥さんとの旅行、エドモンルドニツカとの出会い、エルメスの調香師として迎えられたときのこと、日本贔屓で浮世絵コレクターだと語る彼が来日した時に感じた日本の様子など、居酒屋で話を聞いている雰囲気で綴られています。ちょうどその時期に彼が手がけていた試作品たちのことも書かれていますし、「屋根の上の庭」についても書かれています。面白かったのは、彼がモンスーンの庭を「世界的に不評」だと認識していたこと。そして、彼もついついものを香ってしまうのだということ。例えば市場で見かけた果物。手にとって香ってみるという行為は、それが新鮮かどうかの動物的な確認行為(腐っていないかどうか)として忌み嫌われる場合が多々あります。失礼に思われないように・・・とこっそり手にしていたのですが、これからは今までより少し自信を持って香れそうです。

残念ながら僕は彼の作り出す香りの中で好みのものが多くはありません。それは彼が広く受け入れられる香りを作らなければならないことも理由の1つだとは思いますが、彼の手法「ミニマリズム」に集約されているようにも思います。現在の市場の香りがいかにコピーに溢れたつまらないものが多いのかを彼も指摘しています。彼の成した功績は多大なるもので、この書籍では惜しげなくヒントとなる手腕を披露してくれています。合成香料に詳しい人ならば大きく頷きながら読み解き、香りのオルガンに向かいたくなることでしょう。マンゴーの香りを再現しようとしてマンゴーの苦味、渋みは何で表現したら良いのかを考えていた僕にとって、グレープフルーツやビターオレンジを利用することは容易だったのですが、カシスを使用するというヒントをいただきました。巻末には香料があれば10倍楽しくなるような簡単なオリジナルアコードがいくつも記載してあります。比率は記載がありませんので、調香を学んでいる人は是非アコードの練習をしてみて下さい。途中にスイートピーのアコードが記載してあるのですが、それをそのまま再現をしたところ、僕の作ったスイートピーアコードと似ていて驚かされました。全く違う香料を全く違うバランスで組み立てているのに、です。それは、お手本が生花そのものだったからに他ならないわけですが、たどり着くべき手法というのは1つではない、正解は1つではないと理解出来る良いお手本となりました。

このように、彼自身を知るという日常を綴った部分と、職業として香りと向き合っている人々に向けた部分がバランス良くまとめられており、読み物としても十分楽しめるものになっています。取り急ぎまとめて書籍にしたようなフランス語版よりも、遥かに日本語版の装丁の方が美しくて素敵ですよ。この書籍の中で描かれている彼の試作品たちが商品化された際には、この書籍の魅力がもっともっとアップすることでしょう。 (22/12/2011)


■シャネルNo.5の秘密 (2011年)
ティラー・マッツエオ著/原書房/2,000円

シャネルに関する書籍は沢山発売されていますが、その中でもNo.5だけに的を絞ることで深く掘り下げた1冊。No.5が生まれた背景、調香師とのやり取りなどを時代背景を描写しながら紐解いていく内容で、多くの方が誤解している事項等を正していく良書。巻末の参考資料は膨大で、かなり念入りにリサーチして書き上げたことがわかります。ギリギリの綱渡りのような彼女の精神状態、そこから発生したとんでもない事件がドラマティックに描かれており、No.5を手に取りたくなる1冊となっています。

大きくは2つの事項が印象的でした。1つは彼女はもともとラグジュアリーな商品なのだからどこでも買えるものにはしたくなかったということ。今の時代の大量生産、大量販売は彼女の意向に反していたわけです。では何故そのような売り方になってしまったのか・・・そこにもドラマがあったんですね。Les Exclusifs de Chanelの一連のシリーズはどのようにして生まれたのか、というヒントも見え隠れしていますよ。

もう1つは赤ラベルの謎です。上記の画像の商品が本物なのか偽物なのか、どのようにして生まれたものなのかは以前から話題となっていたのです。2007年にPerfumer & Flavorist社がMademoiselle Chanel No.1の香りをRallet No.1、Chanel No.5と共に成分分析にかけた結果、かなり似通った共通香があることを発表して話題となっていたことを思い出しました。書籍の中では、そこに潜むドラマが更に詳しく描かれています。長く謎だった赤ラベルの謎が判明した時は大事件が解決したような爽快感を感じましたよ。

最新刊ということで、2年前2009年4月のメルマガに記載していました「No.5存続の危機」というジャスミンアブソリュートの使用規制に関する事項、その結果シャネル社はどのような対応を取ったのか、など現代社会までわかりやすく説明してくれていますので、発売時から現代まで、No.5の辿った歴史が詰まっています。

どのナンバーがどの香りに生まれ変わり、どのナンバーがどのナンバーと繋がっていくものなのか・・・是非、上記の画像を見ながら読んでいただきたいですね。各章の扉がシャネルの香水瓶のラベル風になっていたり、タイトルの下にカメリアが描かれていたり、モノトーンを愛した彼女のテイストで統一されており、書籍に作り手の愛が感じられて嬉しくなりました。(18/03/2011)


■香水〜香りの秘密と調香師の技 (2010年)
ジャンクロードエレナ著/白水社/1,050円

Hermesのハウスパフューマーとして活躍している人気調香師の書籍です。手引書とあったので、彼が初心者に向けて書いた下記の新間さんの男性版みたいな内容なのかと思ったら大間違い!!
彼の長年の経験から、昔から現代までの香水の移り変わりをまとめたり、香料に関してまとめたりと、調香を生業としている者に向けての指南書みたいなものになっています。中には「庭シリーズ」を作ることになった経緯なんかも記載していますので、彼のファンには楽しい1冊だと思いますよ。

彼は数千もある香料の中から自分用にチョイスしたマイオルガン(パレットと言っています)があるわけですが、そこはわずか200種しかないのだそうです。その中の151種の香料を全て明記してくれているのですが、proficeで使用している香料と照らし合わせてみたところ、151種中足りないものはわずか20種しかなく、そのほとんどは他の香料で代替の出来るものでした。なんだかプロもこれくらいの香料で(それもHermesの)香水が作られているのだと思うと嬉しくなりますね。

書籍は時代と共に内容が風化していくものです。「マグノリアの天然香料は存在しない」という時代から「採取可能な時代となった」のですが、未だにあまり認知されていません。彼はその点についても触れており、1kgの香料を得るのに5tの花が必要だと記載しています。新しい技術により採取可能となった香料等、やはりその時代の人々が記していかないと古いままですので、そういった意味でも有り難い1冊だと思います。

彼は調香師として、マーケティング関連の現状も記載しています。「香料を50%削減して、その分を広報に回すようになった」というくだりは今のHermesにも通じる内容ですので、調香師として、作り手として苦々しく感じていた部分なのではないでしょうか。FIFI章のような「年間売り上げトップ10」みたいなものはナンの意味もない、と切り捨てていたところも印象的でしたね。(企業利益のないブログ等の口コミにこそ意味がある、と)
また、最後に近年話題になっている香水の「知的財産権」について触れていることが印象的でした。作り手である以上に「若手を教育していく者としての立場から書いた」なんて書籍も期待したいところです。 (20/12/2010)


■香水のゴールデンルール (2010年)
新間美也著/原書房/1,800円

パリと日本で活躍する女性調香師による手引書です。こういった初心者向けの手引書というのは販売する側の方の意見で書かれた昔のものが多いのですが、作り手目線でしかも、若い方が書かれるのはとっても嬉しいことですよね。しかも記述内容に間違がなく現代を見据えているわけですから。ただ敢えて指摘をするならば3ヶ所ほど・・・。

1、 「個性から香りを選ぶ」の中の区分「グラマー」について
・・・何故グラマーが女性だけなのですか?
それを書くならば「セクシー」にして男女共に区分にすべきだったと思います。

2、香りのピラミッドの変遷について
13ノートの次は14ノート、15ノート、16ノートと増えて行くべきなのに15ノートでグルマンが増え、「グルマンが増えた」という項目でグルマンが消失しているのは、説明文と図が複雑に入れ替わってしまっているからだと思います。

3、香水と時代について
「香水と時代」の中の「同系統の香水と発売年」は「ノートで選ぶ」で同じことを書いてしまっているので、同系統の香りを並べるのではなくて、その香水の解説にしてしまった方がスマートだったのではないかと思います。ただ、それを書くにはその香水を知らないと説得力がないわけですが・・・。

本書が楽しいものであるかどうかはお好み次第なのですが、僕はとても好感の持てる1冊だと思います。 (17/12/2010)


■世界香水ガイドII (2010年)
Luca Turin、Tania Sanchez著、芳山むつみ訳/原書房/2,400円

昨年話題となった1冊に451種の香りを加え1,885種となり、表紙の紙質も新たに改訂版となりました。相変わらず何様な上から目線でぶった切る、という口調ですが、不思議と昨年ほど不快に感じられないのは、新たに加わったレヴュー含めて少し辛口度が下がっているからかもしれません。かなりの「ご意見」をあちらこちらから頂いたみたいですね。オフィシャルサイト確認は愚か正しい商品名すら把握していないというお粗末(狭いものの見方)さはいかがなものかと思いますが、猛反発を受けたChanel等、大手がサンプルと正しい情報を提供してくれたことで追加項目となったようです。「よくある質問と答」を追加していますし、451種増えたわりにはサイズもあまり厚くなっていません。(その分フォントサイズがダウンして読みやすくなりました!)

肝心な内容については基本的に変わらないのですが、顕著に彼らの「好み」が出ていると思います。前回からあった内容で示すと、お2人ともローズのシングルノートが好みではないようで、「自分の好みではないので★3つ」みたいな箇所もあるわけです。シングルノートは他の香水と重ねることでよりよく楽しめるという「ワンランク上の提案」があってこそ、購入者のための「ガイド」だと思いませんか?

また、文中のあちらこちらで資生堂のNombre Noirについても触れていますが、肝心なレヴューがないことからも彼が「所持していない」のが明らかです。発売当初にテスターで香った時の印象のままで比較して語っているわけですよ。あんなにムスクが強いのにローズウッディだと書かれるなんて・・・心外だなぁ。ウッディよりもシプレムスクが強いのにそこは記憶にない、ということでしょうか。それと、香りに関する記述というよりも雰囲気の例え表現ばかりで「伝わらない記述」って多いですよね。改定前の内容ですが、例えばp.234のBond No.9のHOT Alwaysの11行は、要約すると「パチョリが強いよね」というだけの内容なのです。それだけのヒトコトを11行使って書いた、ということに他ならないわけです。(このコメントはLucaではなくてTanisです)Lucaの場合も似たようなもので、p.356のCacharelのPromesseでは11行を使って「ピーチ好きには良いけれど、トップ以外はつまらない」と書いているだけなのです。こういう婉曲な表現がお好きな方は良いのですが、「何を言いたいのかさっぱり理解出来ない」という方も多いのではないでしょうか? (彼らに限らず海外のプレスリリースもとにかくこういう箇所が多いです)

などと、反対な意見も沢山あるわけですが、面白いことに★1つの製品は同意見が多くて共感が出来ます。香りの説明にはいろいろなパターンがあって当然で、詩的な表現を好む人も多いことでしょう。彼らが独断と偏見でバッサリ切る、のであればproficeは客観的に記述するというパターンです。

最初の方のページに追加された「よくある質問と答」は単純明快でとても共感の出来る内容でまとまっており、この部分にこの書籍の価値を感じます。彼らはこういう迷える子羊に向けて、まことしやかに広がる噂の間違いを専門家目線の科学的根拠から正すような内容でまとめると、バイブルな1冊になるような気がします。

何はともあれ、彼らは2人で1,885種ですが、proficeの半分ちょっとなわけですから、数の上では追いつかれることはなさそうです♪(17/12/2010)


■ゲラン・香りの世界への旅 (2004年)
ジャンポール・ゲラン著/フレグランスジャーナル社/5,200円

原題は「ジャンポールゲラン・香水の世界の旅」で訳書よりも二周りほど大きく厚さもあります。がっしりとした作りのこちらの書籍は残念ながら絶版となってしまっているのですが、いつの日か復刻版として発売して欲しい1冊ですよね。何よりもイラストと画像が美しいですし、見て目読んでも楽しい1冊なのですから。言ってみれば「大人の絵本」な感じなのです。大人ですから文字は多いですし、中身も専門的な内容になってはいますが、Guerlainという一族の中に生まれた彼の長いプロフィール(幼少期から成功するまで)を楽しく読むことが出来ます。このプロフィール部分が前半で、後半は実際に彼が世界を旅して香料を買い付けした日々の回顧録になっているのですが、前半と後半で紙質を換えるというこだわりぶりです。紙質は翻訳本の方が豪華なのですが、8種を使い分けているそうですよ!

後半の内容は調香師に必須な買い付け作業の回顧録です。ChanelもGuerlainにとっても農家を見ずして審美眼は養われないでしょうし、世界を知らずして創造力も生まれないことでしょう。彼が買いつけ、Guerlainのために栽培をお願いしている農家についての記述が丁寧に描かれています。

この書籍の中で印象的だったのは「合成香料とは天然のエッセンシャルの補完である」という言葉です。全くその通りだと思います。また、94年にLVMH社に買収されるまでは4年に1つしか新作を発売していなかった、という事実も印象的でした。やはり大手に買収されると売り上げ重視で新作を溢れるほど作らされ、廃番にされていくのですね。5代目として養子に迎えられたThierry Wasser氏の調香は「顧客あってのゲラン、品質は落とす無かれ」という信条を逸脱しているように思いますが、もともとの「主原料を大切にせよ、少しずついろいろ混ぜても何の個性も生まれない」という内容に思わずJean Patouの1000を思い出しました。全く僕もその通りだと思います。多すぎても「混ぜただけの香り」にしか感じないのですから。数少ない香料でいかにしてバランス良くまとめていくのか、こそが調香師の技量なのではないでしょうか。MitsoukoとNahemaの調香がわずか10種の香料で出来ていたなんて驚くばかりです。また書籍内にはSharimerと、C'est Moiという香りのタルカムパウダーの調香がGuerlain一族の聖書(バイブル)とも言える調香ノートとして(小さく)公開されているのですが、目を凝らして文字を読み取ると、それぞれ18種、16種の香料で作られていたことがわかります。 C'est Moiはパウダリーなライラック調の香りだったようですよ。昔と今の香料自体が違いますし、調合香料も使用していたようなので完全な再現は出来ませんが、レシピを読み取ることが出来ましたので一度作ってみたいと思います。

こちらの書籍はプレミア価格になってしまっており、なかなか手にする機会も多くないと思いますが、フランス語版はご好意で寄贈いただくことが出来ましたので、調香体験セミナー等でオフィスにお越しの際には、是非手に取って見て下さい。 (13/12/2010)


■香料文化誌 (1973/2010年)
C.J.S.シンプソン著/八坂書房/2,800円

1973年に「香料博物誌」として1000冊限定で発売された書籍が、加筆訂正を経て再販となりました。広く歴史に沿って香料の文化史をまとめた1冊で、興味深く読めます。世界の歴史というのは時代に沿ってまとめてみても、各国、地域同時進行ですのでなかなか横軸で学び取るのは難しいものです。こちらの書籍もやはり横軸ではなく「ギリシア時代」「ローマ時代」のように1つ1つの時代、地域ごとに区切って縦軸に解説しています。もともとの書籍が古いだけに古本での購入を躊躇していたのですが、新装版とは言えあまり時代を感じさせない内容になっており、スムーズに読めたのが印象的でした。(13/12/2010)


■香水のすすめ (1962年)
堅田道久著/文芸春秋社/220円

所有している中で1番古い香水に関する書籍です。学術的な内容ではなくて、当時まだ香水が全くの「嗜好品」であり今のようにカジュアルな香りがなかった時代のエッセイ集です。今ではえ?と思ってしまうような内容もありますが、日露戦争時の「赤箱」(フルールダムール)の話等興味深いです。筆者は南仏グラースで調香師の中でも伝説的に有名なJean Carles氏に師事していた方です。背表紙には当時のJean Carles氏との記念撮影の写真もあるんですよ。彼の教える調香というのはそれこそクラシックの原点なわけですが、香りの軸を際立たせて骨格を形成するという作業が僕にはとても良く分かります。まず軸ありきで、その軸(例えばローズとかジャスミンとか)に深みとコクを加えていくんですよね。料理みたいに。更にChanelのNo.5を作ったErnest Beauxの話題にも触れています。Ernest BeauxはChanelに渡す前にすでにNo.5の香りを自身の記憶を留めるために自作していたんですね。彼が香りにしておきたかった風景がNo.5に繋がっていくのですが、こういう「ストーリー」をきちんと今の時代に伝えられていたら、もっともっともっとNo.5への理解が深まるのではないかと思います。何はともあれ、昔の香り文化を知る上では貴重な「調香師のエッセイ」だと思います。語り口調もとっても「昭和」で微笑ましく読めますよ。(17/09/2010)


■毎日を楽しむ香水の法則 (1998年)
平田幸子著/ 講談社/1,600円

上記とは逆で現代的なエッセイ集。彼女の書籍はビギナー向けのHow to本が多いのですが、これは260本のカタログの後に彼女自身がエッセイとして香りにまつわるエッセイを記しています。当時、彼女を取り巻く環境化で香水はどのようなものだったのか、彼女が思い描く香水像・・・と興味深く読める1冊です。そうそうそう、と共感したのは「生花に勝るものはない」という感じ方です。生花こそが自然の芸術なわけで、いくら香料を以って再現しようとしても完全な模倣にはならないわけですよ。自然には勝てないと納得した上で、捉えていかないと。後は彼女が「アロマテラピー」と「フレグランス」を完全に切り離し、アロマに興味はないと言い切っていた点。僕も完全に別物だと思っていますし、香りが好きなのであって、薬効には興味がないんですよ。とても共感する部分が多かったです。穏やかな人柄がしっかりと感じられる1冊でした。ただ、彼女は調香師ではありませんので、香料に通じる記述はほとんどありません。飽くまでも販売する側と顧客の中間に立った女性の視点のエッセイです。(27/04/2010)


■香水の歴史 (2010年)
Roja Dove著、新間美也監修/原書房/3,800円

Guerlainに務めていたRoja Doveがビギナーに向けた指南書として幅広く香水の歴史をまとめた1冊。フォトグラフィーと名を付けるにはあり得ないくらい雑な画像(暗かったり)がちょこちょこありますが、この書籍の良さは監修がしっかりとしていて「安心して読めること」。この一言に尽きると思います。(proficeの画像の方が綺麗なものがあったりもするんですよね・・・)確かに間違いっぽいヶ所もありますし、取り上げているブランドに偏りはあるし、最後は自身のブランド紹介だし・・・と突っ込みどころはありますが、そんなことを忘れさせてくれるくらい丁寧にまとめられています。丁寧、そう、その言葉もぴったりだと思います。あぁ、この人本当に香水が好きで世界に飛び込んだんだ、と微笑ましく読んだ1冊です。後は、3,800円という価格が見合うかどうか。フルカラーなので仕方のないことなのかもしれませんが、この書籍を日本語にして発売しようと思った原書房さんが素敵です。(27/04/2010)


■香水のすべて (1961年)
東逸平・杉山賢一共著/わせだ書房/400円

昭和36年発行という古い書籍。株式会社世界の名香という会社が存在し、「世界名香の会」を発足していたということが書かれています。もともとこの書籍には付録として香りの見本がついていたそうです。後、頒布会も行っていたようで、その早々たるラインナップに驚かされます。有名どころなのは確かですが、今の時代でも引けを取らない「名香」たちが頒布されていたのです。この書籍が発売された当初は1961年。ミスディオールが発売された年だったようで、広告も記載されています。時代と共に生活様式は変化し、それに伴って香りそのものに受ける印象も香水というものの価値感も変化してきました。1961年当時の「香水文化」というものに触れることの出来る貴重な1冊です。香水の紹介も多々あり、例えばGuerlainのLiuは30mlのパルファムが13,500〜17,500円だったのだとか。LubinのGin fizz、Nuit de longchampなんかは昨年復刻されましたが、この書籍にはオリジナルが記載されています。この書籍の凄いところは、一般的な軽いコロンではなく飽くまでも高価で貴重なパルファム(当時からかなり高価だったようです)の香りを広く知ってほしい、楽しんで欲しいという意図が端々に読み取れることです。いつの時代も変わらないものなのですね。(15/04/2010)


■香水ブランド物語 (2007年)
平田幸子著/学習研究社/1,600円

ビギナー向けの読み物として楽しめる1冊。ブランドの成り立ちを歴史と共にメジャーな香りと絡めて紹介しており、柔らかな語り口が印象的です。香りに詳しい人になると、もうシャネルやゲランなど知りすぎていてつまらなく感じてしまうかもしれませんが、Santa Maria NovellaやPenhaligaon's等にも少しだけ触れていて、幅広くまとめた書籍にしようとしたことが伺えます。小話的なこと、調香師の紹介、香りの種類に付いてなども散らばっていますので、「そもそも香水ってどういうものなの?」と疑問に感じた方は読み物としててにされると良いと思います。ただ、やはり書籍は香りませんから手元にボトルがあれば1番良いんでしょうけど。それでも、香らない書籍から香りをイメージする・・・というのも今の時代になかなかなくなってしまった行為ですから、創造力を働かせることを楽しんでみて下さい。そして、本物の香りに出会った時に理解が出来れば、と思います。 (12/04/2010)


■香りの科学と美学 (2009年)
藤森嶺編著/東京農大出版会/2,800円

香りというものを見て、感じて、取り出して、創る・・・という過程を10名ほどの方々が書き連ねた書籍。内容はとても楽しいのですが、基本的な内容が「香水」ではなくて「フレーバー」です。そう、フレーバーリストの人たちのための書籍で香水とはほとんど無縁です。ただ、フレーバーってどうやって作り出すの?という疑問には最初から優しく解説してくれています。香水とフレーバー業界というのは切っても切れない縁で、使用する香料も同じものが沢山あります。ただ、組み立て方や調香が別ものになるのです。何故なら「口に含む」から。香水というのはムエットで香りを確認しますが、フレーバーとムエット以外に希釈した水溶液を口に含むのだそうです。そうですよね、喉から鼻に抜ける香り方もとても大切なのですから。香水をメインに・・・と期待しててにとると読むところが少なくなってがっかりしますが、切っても切れない風味と香りの世界。フレーバーリストの皆さまの仕事を垣間見れる1冊です。


■匂いの人類学 (2003年)
エイヴリー・ギルバート著/ランダムハウス講談社/2,000円

「鼻は知っている」というサブタイトルの付いた1冊で本書の発売は2008年です。1年で翻訳されて発売されるだなんて、専門書籍には珍しいことですから、こういう文化的書籍の価値感というものが売れる時代になったのかなぁ。香り文化について、ですが。科学的なノンフィクション作でこの書籍の特徴はとにかく「裏づけ」です。あとがきにも記載がありましたが、とにかくねちっこいという表現がぴったりなくらい裏づけを取っています。例えば世間で言われている「人間はどのくらいの数の香りを分別できるのか」というテーマに対してその数字的根拠は何なのか、いつの時代のどのような実験結果を元にしているのか、その実験の信用性は?ということを徹底的に調べあげた上で、解釈ミスだとか根拠なしと解明していくのです。著者は本当に幅広く文化的に博識で、書籍や映画、ニュースにまつわる香り文化について取り上げて混ぜ込みながら書籍を読み物としてまとめています。もともと香水の開発チームに所属していたりしていた心理学者でもあるのですが、基本は「嗅覚の研究」です。良い香りだけではなく、悪臭についてもどんどん記載があるので、具合の悪くなる記載もあると思います。匂いマーケティングの話や嗅覚障害の方の話、とにかく「嗅覚」という視点で人間と経済を結びつけた感じで、さらりと読むには専門的過ぎる内容なのですが、興味のある部分だけ拾い読みしても楽しめる1冊だと思います。(08/02/2010)


■匂いの帝王 (2003年)
チャンドラー・バール著/早川書房/2,300円

ザ・ガイドで世界的に有名になったルカ・トゥリンについてまとめた書籍。内容は大きく分けて2つで、彼が提唱する「香り分子の形」(分子が香りを持つ仕組み)と、彼自身についてという2つで構成されています。分子に関する記述は「ふーん」という程度のものなのですが、学会というか業界からすると「実証されれば凄いこと」なのだと思います。(実証例が少なすぎることもあって闇に葬られた感があります)僕はまずルカ・トゥリンがとても苦手なのですが、チャンドラーバール自身もかなりぶつかったようで、彼は性格的に問題が多いとの素直な記述があり、性格破綻者であることが要所要所に汲み取れます。余程彼の行動は面白くても彼自身は嫌いだったのではないでしょうか。持論が認められないばかりか、香料会社に出入りするもすべからく拒否されてしまう彼の言動と行動。普通の書籍だと「あっちこっちで拒否されたけれど最終的に認められて実績と名声を得た」という流れになるのでしょうけど、彼の場合は拒否され続けて終わってしまうのです。彼は典型的な学者肌で口が悪く、幅広く嫌われる性格だということが書籍から溢れるように伝わります。でも、彼自身が伝えたいこと・・・というか、分子の研究以外の面で語っていることは僕も共通認識というか意見が一致する部分があったりするんです。書籍後半に登場するインド人とのウードの香りのやりとりの中で登場する昔の名香に良く使われていたムスク香料「ムスクキシロール」「ニトロムスク」。これらは現代では使用されなくなりましたが、それらが使われていたからこそ完成していた、という香りがあるわけです。置き換えられたことで香りそのものが変わってしまった香りたちが沢山あるわけです。後半で1番興味深かった内容なのですが、そのお店はいまも実在していてこちらです。香水を言葉で説明する・・・という書籍がザ・ガイドが発売される以前にはなかったことから目新しさ、物珍しさがあって売れたわけですが、今では海外ブログも盛んですし、コミュニティもあります。言葉で表現をする・・・という批評だったらこのproficeはザ・ガイドの倍もボリュームがあるんですよね。化学的根拠を持って芳香物質を説明できるという点で彼は唯一無二だと思いますが、香りのバランスの良さに化学的根拠はありませんから、批評は単純に彼の好みの問題です。

本書の中で彼が熱弁をふるったニトロムスクやムスクキシロールの記述が印象的だったのですが、この書籍を読まれた方、彼のファンの方、その香りはどのようなものだったの?と気になる方に。これらの香料は発がん性や環境ホルモンである疑いがあるために使用されなくなった香料です。日々それらを高濃度で扱う調香師や研究者は問題ですが、香りを試すくらいであればさほど問題のない香りたちです。(往年の香水には使われていた香りたちですし)どうしても気になる!!という方は下記のフォームでご応募下さい。→終了しました。(21/12/2009)


■フランスの職人たち (1995年)
浅岡敬史著/東京書籍/1,748円

著者がフランスを旅してインタヴューして集めた内容と写真の数々。日本だって「京都職人(匠のてのひら)」という素晴らしい書籍がありますが、継いで行く難しさを感じます。日本は後継者不足を悲観するくらい熟練工というか難易度の高い技術職人が多いのですが、フランスではもっと気持ちを楽にして向き合える生活に馴染んだ職人技が取り上げられています。だから読んでいて楽しいのかもしれません。頑固だけど優しい、気難しいけど繊細、という人々が登場します。調香師は女性調香師が取り上げられているのですが、残念なことにインタヴュアーである浅岡さんが香りについて全くの無知であり、読んでいて恥ずかしくなるくらいのビギナーっぷりを発揮しています。あぁ、僕だったらあんな質問、こんな質問を投げかけただろうに・・・とむず痒くなる1冊。(09/12/2009)


■化粧品にかかわる仕事 (2008年)
ヴィットインターナショナル企画室/ほるぶ出版/2,200円

「化粧品が好きだから、化粧品に携わる仕事に就きたい!!」そう願う若い方に是非手にしてもらいたい1冊。特に中高生でしょうか。化粧品1つ販売するに当たり、原材料費だけではない製品化するまでの苦労と過程、携わる人々の様子がインタヴューと漫画を交えて分かりやすく紹介されています。自分がどの内容に1番興味を惹かれるのか、というのを見極めるためにも良いでしょうし、新たな魅力を発見する材料になるかもしれません。ただ、化粧品関係は大学できちんと薬学を学んでいる方が圧倒的に有利なのは言うまでもありません。調香師の記述も仕事内容とインタヴューで構成されていますが、大変さが手に取るようにわかります。飽くまでも仕事ですから遊びではないのです。香水が作れるわけではなく、国内だとそのほぼ全てが「化粧品の香り付け」だったりします。ですから国内の調香師の皆さんは香水そのものも、世界の流れも詳しくないんですね・・・。その代わり、当然ですが化粧品に関してはスペシャリストだと思います。(09/12/2009)


■ファラオの秘薬〜古代エジプト植物誌 (1994年)
リズ・マニカ著、編集部訳/八坂書房/2,884円

古代エジプトにテーマを絞った植物誌という極めて幅の狭い書籍です。でも、1つの時代にテーマを絞ったことでとても濃密な内容となっているのが特徴です。この時代を探るのには当時の遺跡や壁画、後年のギリシア時代のパピルスととんでもない量の資料を紐解かれたことでしょう。研究者の成果ですよね。内容は植物に特化しているので歴史はわからないのですが、当時からエジプトの人々がどれほど沢山の種類の植物に馴染んでいたのか、香料をどのように活用していたのか、ハーブの活用、香料の採取、組み合わせや使用方法を詳しくまとめた1冊で、ハーブについてはディオスコリデス(ハーブ植物学の祖みたいな人)の記述に基づいています。(27/11/2009)


■FRAGRANCE (1992年)
エドウィン・T・モリス著、中村祥司監修/求龍堂/5,000円

借りた書籍が良かったので、即購入に至った1冊。「クレオパトラからシャネルまでの香りの物語」という副題が付いているのですが、その通りで古代から現代(1990年くらい)まで、歴史に沿って話しが進められます。読んでいて面白いと感じるストーリーが多く、難しくない点が好印象です。こういうある意味専門的な内容は難しくなりがちなのですが、香りの世界をさぐる/調香師の手帖の著者である中村祥司さんが監修しているということが大きなポイントのようです。だから読み安いのではないかと。昔のボトルや香料採取の様子、イラストなど画像の点数も結構多いので、視覚的にも楽しめる冊だと思います。「合成香料が悪者のように扱われているけれど、石油だってもともと天然素材なんだよ」という一言にハッとさせられます。合成香料を知らずして合成香料を語るなかれ、です。事実を知らずして「なんとなく」合成香料を否定するのは浅はか以外の何ものでもないのだと、心が引き締まった1冊。(11/11/2009)


■9.11のジャスミン (2008年)
遠藤明子著/朝日クリエライブラリー/1,365円

9.11のあのテロ事件によって人生が変わったという著者の記録。この方はLa Lumpiniというブランドをスタートさせた方なのですが、それに至る経緯を綴っています。成功した方というのはパワーと良運、友人に恵まれているということ、パワーある行動力が全てだと感じさせられる1冊です。ただ、読み進めていくと全てを「運命的」と位置づけて突き進んでいるように思えてなりません。成功者の失敗談の方が面白みがあるのに、結果好転的な内容に少しうんざりとしてしまいました。タイで「運命的」ジャスミンの香りと出会い、「運命的」に商品化することが出来た商品ラインナップ。でも、この方はもともと香りに関する知識が皆無であったことがはしばしに感じられるんです。香りに明るい方が作った商品ではない、ということが商品の中の香りにも現れているように思えてなりません。(石鹸の質は良かったのですが、香りはとても微妙だったのです)
クリエイター系の「商品を創造する」というタイプではなくて、「自宅でもSPAの雰囲気が味わえたらなぁ・・・」というあっさりとした雰囲気です。書籍自体も気持ちよく読める内容とは言い辛くて、自慢話的なストーリーが多々あるので面白く感じるかどうかは人それぞれ、と言えそうです。(11/11/2009)

■香りの創造 (1988年)
エドモン・ルドニツカ著、曽田幸雄訳/白水社/750円

名香と言われる礎をいくつも世に送り出してきた調香師エドモン・ルドニツカの書籍の翻訳書。彼の書籍はフランス語のみで英語版にすらなっていないものが多いようです。(調香師ならフランス語で読め、という感じなのかも)彼自身、調香師ではない人たちが調香について語っている書籍がいかに多いか、いかに間違いだらけで事実を捻じ曲げてしまっていることか、と嘆いています。そのためにこの書籍にまとめたのだと。内容はもう嗅覚行動と仕組みから調香とは何か、に至るまで細かく書かれているのですが、本格的な書籍ですのでガッツリと力を入れて「読み解く」感じでないと読破は出来ません。あまりに専門的な書籍なので「学ぶ書籍」に分類したかったくらいです。彼はアコードを取る練習を「無意味だ」と切り捨てていたのが印象的でした。この翻訳をされた方、もう少し租借した表記をしてくれたら読み安いものになるだろうに・・・というのが唯一残念な点です。分かり安い言葉を敢えて難しく表現している箇所(論文調)が多すぎる気がします。


■香りの博物誌 (1992年)
諸江辰夫著/東洋経済新報社/1,600円

香りの歳時記、香りの風物詩に続く3冊目。四季の香り、食卓の香り、香りの謎、四方山話・・・とカテゴリーに分けて綴られたエッセイで、1つ1つが短くて読み安い内容となっています。桐の花、コーヒーの花、香りがないと思っていたキョウチクトウの香り等知らなかった花々の香りが綴られており、興味を深めました。見かけたら香ってみないと!!という意欲に燃えた1冊です。鮎の香りというのはキュウリやスイカっぽいと言いますが、あれは鮎が食べている藻の香気成分だったなんてびっくりです。そんな意外な香りにまで取り上げてくれているのはね高砂香料にて永く研究をされ、国際香りと文化の会会長である著者ならでは。

■香りについての30章 (1977年)
国際商業出版編/750円

香水というものを今ほど日本人が受け入れていなかった1970年代。その頃の日本人とって香水は「海外のお土産でもらうもの」であり、みんな一様に「箪笥にしまいこんでいた」という記述に大きく頷きたくなります。皆さんもそうだったのでは?いやしかし、香道という微妙な嗅ぎわけを楽しむ文化に親しんでいた日本人の嗅覚が鈍いわけがない、という内容で始まります。ちょうど時代的に資生堂のインウイが発売された当初の書籍のようで、インウイにまつわる内容が多くみられます。海外ではZenよりもヒットした衝撃的な香りで品切れ続出だったとかなんとか。「香水は体臭を隠すためのものではない」という日本人の思い込みの間違いもきちんと指摘しています。「体臭だって1つの個性、香りは第2の体臭なのだ」という言葉が印象的です。さらっとエッセイのように読めます。


■香りをたずねて〜新コロナシリーズ29 (1995年)
広瀬清一著/コロナ社/1,340円

まさに調香体験セミナーの中で行っていた古代から中世、中世から現代という香りの変遷、つながりや歴史をとてもわかりやすくまとめている書籍です。香水に限らず、魚(鮭)、昆虫、植物、人間それぞれの匂い行動についても分かりやすくまとめてあり、読み物としてさらっと読めて楽しいものになっています。そこから何を得るのか、という学ぶ書籍ではなくて飽くまでも「そうだったのか」的な読み物としては楽しい書籍だと思います。

■薔薇のパルファ (2005年)
蓬田勝之著/求龍堂/1,600円

たまたま国際バラとガーデニングショウでお会いした蓬田先生から購入した書籍です。もう、バラの香りについてはこの書籍が1番なのではないでしょうか。というか、バラについてはこれをバイブルとしても良いのではないかと思うくらいに全編に渡ってバラづくしです。資生堂にいらした際の研究のお話だったり、宇宙に言ったバラをZenに組み込んだとかなんとか読み物として楽しいです。ただ、香気成分に関しては合成香料をしっかりと知っている方の方が香りのイメージもしやすくて楽しめると思うのですが、こればかりは致し方ないですよね。バラにまつわるエトセトラを古今東西まとめてしまったという、バラへの愛情を感じる書籍です。


■香りの小〜花と香りのエッセンス (1991年)
中村祥二監修/求龍堂/2,000円

花と香りのエッセンスという副題の通りに50種以上の花について香りを軸にまとめたというエッセイ集のようなもの。ただ、香気成分の記載が多いので中身は少し専門的と言えそうです。もう少し「面白い」と思える読み物になっていれば良かったのですが、ちょっと1つ1つの花にまつわるエピソードが少なくて物足りなさを感じてしまいました。何度も何度も読み返す、というものではなくてさらりと読み流す系ですね。(とは言え、この書籍は上述の蓬田先生から頂いた書籍なのですが・・・)。


■世界香水ガイド (2008年)
Luca Turin、Tania Sanchez著、芳山むつみ訳/原書房/1,800円

彼の世界観というか彼自身が好きでないと最後まで読めない書籍。ガイドというタイトルながら全くガイド的な役割を担っていない批評本で、サンプル程度の香りを試しただけで香水を一刀両断しています。ボトルのスタイルとか、作られた背景にあるストーリーとかそういうものは全く無視というか、知ろうとしない姿勢に読んでいてうんざりしてしまいました。もともと香料の世界にいたエキスパートな方ですから、合成香料の話題には惹かれる記述があるものの、人間性が疑わしく、サンプルを提供してくれなかったブランドの悪口を上から目線で書き連ね、知り合いの調香師の製品を褒め上げるという小学生のようなことを書いています。ガイドというタイトルなのであれば、良い点と悪い点を比比べつつどのような方には良いのか、という内容にしていかないとダメだったのではないかと。(でも、香りの好みは割りと似てたりします)


■香りの世界をさぐる (1989年)
中村祥二著/朝日選書/1,400円

「調香師の手帖」と改題されて単行本化した人気本です。内容はとても面白く、勢いに乗って読み進められます。エッセイのようでしっかりと歴史も押さえてあったりして、幅広く本当に「香りの世界」を案内してくれる書籍だと思います。単行本化した「調香師の手帖(ノート)」の方は加筆訂正が加わっていますので、昔のこのタイプの書籍を購入するよりも現行品の単行本の方をおススメします。僕はもちろん両方読みました♪僕は続編を読みたいと思うくらい、内容もまとまり方も好きな書籍です。


■香りと意匠〜資生堂香水瓶物語 (2008年)
資生堂編/資生堂/1,500円

企業努力なしでは生まれない書籍だと思います。香水1つを世に送り出すのにどれだけの人が関わってきたのか。香りとは別に香水に大きな影響を与える「パッケージとデザイン」に特化した資生堂の記録で、誰がどのような意味を込めて、どういう過程で完成したのか、という製作者側の意図を明らかにした書籍。時代の変化に対応しながら昭和の時代を駆け抜けた資生堂の歴史がデザインと共に浮かび上がります。昔懐かしい資生堂の製品を愛用されていた方には、「あの製品の裏側にこんなドラマがあったのか」と懐かしくなるものもあったりするはず。専門書というのはどのような分野でも購入する人が少ないから高いわけですが、この価格で販売出来ちゃうのはやっぱり企業努力ですよ。銀座のハウスオブシセイドウで取り扱いしています。


■香りを楽しむ本 (1992年)
中村祥二監修/講談社/1,400円

上述の「香りの世界をさぐる」というのが香りの世界に入り込んだ内容だとしたら、こちらはこれから香りの世界に入ろうとしている人向けの書籍。いわばビギナー向けの内容になっているので、香水よりもまずは肩肘張らないスタイルで「香りというものを楽しみましょうよ」という内容になっています。すでにその域を超えている方には当たり前すぎることだったり、当然のように知っている有名なことが書き連ねてあったりしますが、誰だって最初はビギナーなんですから。香りのハンガーを創ろうなんていう遊び心のある内容も記載してあったりします。


■パフュームレジェンド〜世界名香物語 (2005年)
マイケルエドワーズ著、中島基貴訳/フレグランスジャーナル社/9,000円

著名な洋書の翻訳版。歴史的な名香がいかにして生まれたのか、ということを44種の香水を例にまとめられています。今はもう亡くなっているブランドの創設者がどのように考えていたのかということを過去の資料や手紙などから読み解いてまとめるにはとてつもなく時間がかかったことと思います。プロデュースをしたブランド側、香りを作り出した調香師、それを彩るボトルデザイナー・・・と3名がチームを組んで始めて香水が誕生します。本当に香水が1つ生まれるにはそれなりのドラマが潜んでいるのだと読んでいて感銘する書籍です。大量生産されて使い捨てされるような現代香水には見られないドラマが昔はちゃんとあったのです。


■フレグランスコーディネーター (1996年)
平田幸子著/同文書院/1,200円

平田さんが提案する香りの使い方というか、様々なシーンで使われる香りについてエッセイのように綴った書籍。内容はとても軽くてビギナー向きですから、ちょっと物足りなく感じる方もいらっしゃるかもしれません。読み物としてはさらっと読めてしまう今で言うブログ的な書籍。欲を言えばもう少し内容に厚みというかボリュームがあると良かったんだけどなぁ・・・と思ってしまいます。150ページほどで1,200円というのはなんだか高い気がしてなりません・・・。


■香りの風物詩 (1986年)
諸江辰男著/東洋経済新報社/1,500円

まずは季節の花々を、次にスパイスや食品を、そこからは香りにまつわる様々な話をこまごまとまとめた書籍で、最初の花々とスパイスの部分は読み安いです。後半に行くに従いだんだんとマニアックな内容となり、最後の方ではヒドロキシシトロネラルというスズランの香料が偶然に生まれた経緯が記載されています。「限りなく水に近い化粧品」という項目が23年を経ている現代にも通じる内容で興味深いです。無香料って何?みたいな内容です。惑わされてはいけません。天然香料ではなくてむしろ合成香料の方が安全性は高かったりするんです。化粧品っていつの時代も勘違いしやすいコピーで売ろう売ろうと必死だというのが見えてきます。


■フランス香水の旅〜香りを創る男たち (1993年)
松井孝司著/NHKクリエイティブ/2,500円

とても面白い良本だと思います。取材をまとめた書籍なのですが、グラース在住の調香師の方に直接インタヴューした内容、ゲラン家の歴史と調香師へのインタヴュー、ジバンシイの調香師の話、グラース最後のチュベローズ農家やシャネルが契約をしているジャスミン農家の話など、NHKという媒体を通じて直接ご本人にやり取りを行った内容がまとめられています。香水が生まれるまでにどれだけの人々が関わり、どれだけ大変なものなのかが理解出来るいわば作り手の裏側を明かしたような書籍。香水を使う側も作り出す側も一度は読んでおきたい書籍だと思います。良いものを作り出そうとする調香師と、売ろうとするマーケティング側による意見がぶつかり自由な発想で物が作れなくなったというエドモン・ルドニツカの言葉が心に響きます。現代において調香師と呼べるのは世界中でも一握りの人たちで、後は「技術者でしかないのだ」と。


■香料文化誌 (2003年)
C.J.S.トンプソン著、駒崎雄司訳/八坂書房/2,800円

文化誌とタイトルを付けただけあって、歴史的に見て香りがどのような使われ方をされてきたのか、誰がどのような香りを愛したのか・・・ということをまとめたある書籍。古代史や文書に記載された内容が頻繁に引用されています。少し堅苦しすぎて読んでいて面白いという内容ではないのですが、歴史的な人物と背景がしっかりと理解出来ている人にはすんなりと入って楽しめるのではないかと思います。やはり誰がどのような・・・という歴史的な話はその人物の生まれた、育った背景というかその当時の生活までも理解していないとすんなりと身体に入ってこないというもの。広く沢山の書籍を紐解き、忘れた頃に戻ってまた読むと良いのかな、とも思います。


■The Secret of Scent (2006年)
Luca Turin著/23.95ドル

「香りの愉しみ、匂いの秘密」というタイトルで翻訳された原書。もともと胡散臭い人だと思っていたのであまり好きではなかったのですが、書籍だけは持っていました。でも原書なので内容まではわからず、でした。世界香水ガイドを読んで見て「これは読まなくても良いや」と思ってしまったので、翻訳された書籍は今後も手にすることはないと思います・・・。



■マリーアントワネットの調香師 (2007年)
エリザベット・ド・フェドー著、田村愛訳/原書房/2,000円

実在したマリーアントワネットの調香師が辿った運命を綴った書籍で、資生堂が彼女の香水を発売したタイミングに合わせて発刊されました。だったらもう少しマリーアントワネット風にしてくれたら良かったのに・・・と思うのですが。(やはり昔のイメージのままだと売れないのでモダンクラシカルな香りとして発売されました)香りの文化は上から下に流れてくるという時代をそのまま切り取って「調香師目線」で書いています。時代に翻弄された調香師が辿った運命なわけですが、当時の様子というのをこういう形で読み物としてまとめた書籍は他にないのではないでしょうか。著者は資生堂とヴェルサイユ宮殿とで「Le Sillage de la Reine」という香水を2006年に作ったヴェルサイユ香水学校の教授です。


■時間の香り (1997年)
高砂香料工業株式会社 広報室編/八坂書房/1,600円

50名の著名人が書いたエッセイ集。1961年からの高砂香料時報(PR誌)に掲載されてきた内容をまとめたものです。もともと香りのプロではない方々が書いた香りのエッセイですので、とても内容が軽く、腰を据えて読むようなものではありません。ちょっと時間つぶしに開いてみた、というくらいでちょうど良いようなとても軽い内容。兼高かほる(懐かしい!)、20年近く前の福島瑞穂、果てはジェームズ三木や幸田シャーミンまで「何故この人に?」という方にエッセイを依頼していて不思議です。「香り」という同じテーマでいろいろな方が綴っていくというのも現代版があればまたそれはそれで面白そうですね。香りというのはいつの時代も思い出と繋がっていますから。


■香水の教科書 (2004年)
榎本雄作著/学習研究社/1,400円

本当にタイトルの通りに「教科書」とも言えるカジュアルな内容です。深い話題は一切なく、とにかく初心者に語りかけるような目線で綴った指南書。こういう分かりやすくて簡単な書籍は中高生の頃に読んでおいたら良かった・・・と思わせてくれます。ただ、全編を通してあまりにもサラリとしているため、書籍としての重さはなく、心に残るような言葉もありません。でも、良いんです。当たりさわりない「教科書的なもの」を目指しているのですから、個人の大きな(クセのある)意見と言うのは禁物ですし。これからちょっと香水を使おうと考えている若い世代にこそ手にして欲しい1冊です。


■日本の香り (2005年)
松榮堂監修/コロナブックス/1,800円

松榮堂が監修したという和に突出した1冊。日本人がいかに香りと接してきたかという歴史を薫香と共に紹介しています。インセンスの作り方や薫香の素材紹介もあるのですが、香水には使われない貝香もあったりします。お香というのはどうしても燃やすというスモーキーな煙の香りが強いこと、素材が少なく限られていること、纏め上げる素材香が強いことから大きな差は感じられないものが多いのですが、その中から「わずかな差を感じ取って楽しむ」というのがとても日本人っぽいですよね。繊細さというか細やかというか。


■パリジェンヌの香水レッスン (1999年)
平田幸子著/KKベストセラーズ/1,100円

おしゃれをしたい・・・という夢見がちで背伸びしたい年頃にぴったりな1冊。これを読んだからどうなる、こうなる、というような指南書めいたレッスンの内容ではなくて、「香水というのはもっともっとリラックスして自由な発想で楽しめば良いんだよ」と語りかけてくれるような内容です。絵本のように言葉数の少ない書籍ですので、本気で読もうとすると10分で終わってしまう内容です。本棚に置いてあることが重要なんだといわんばかりのライフスタイル提案型な1冊。


■香水の時間です (2005年)
ささもとくによ/ポプラ社/1,200円

Webにアップされていたエッセイを書籍にまとめたもの。やはり「書籍で読みたい」という人口は多いのでしょうか。なんとなくやはり手にしてしまいます。香りというよりも匂いというくくりで女性らしいタッチで綴ったエッセイ集で、取り上げられている匂いたちはとても庶民的です。こういうスタイルが「共感を呼ぶ」のだろうなぁ・・・と思いつつも、全てがやっぱり女性目線であるがゆえ、男性にはとんとピンと来なかったりするものも多々あったりして。僕はやっぱりポエム、妄想系のものではなくて、学術的な構築系の内容、成分的だったり史実だったりと「事実に向き合って物事を知る」という身に付く知識系の書籍の方が好みのようです。これはやはり女性のための書籍ですね。


■南フランス 香りの花めぐり〜花から学ぶ調香の秘訣 (2007年)
広山均著/フレグランスジャーナル社/2,500円

グラースを中心に南仏で育つ香料花、芳香花木を著者が旅した、住んでいた頃の思い出と共に語る回顧録。純粋に花の解説をしている部分は興味深く読めるのですが、そこに突然挟まってくる回顧録が邪魔で仕方がありませんでした。なんだかボケないうちに思いつくまままとめました・・・という雰囲気があって、内容はもっときちんとまとめたら楽しいものになるだろうに、映画の中に頻繁にCMが入る感じで読みづらいです。(しかも面白くない)旅行記の部分と花や精油に関する部分と分けるか、どちらかに統一して欲しいです。興味深い内容が多いだけに残念な1冊。


■私の香り (1995年)
榎資生堂研究所香料研究部/求龍堂/2,000円

上述の「香りの小の大幅な改訂版。なんとなく読んでいく中では全く別物として読めるくらいに「あれ?以前読んだな」という雰囲気を感じさせない1冊です。資生堂らしい研究、香気成分の調査などの話題も盛り込んでいますが、決して難しくなりすぎることなくまとまっていて、さらりと読めます。いわゆる香りの指南書としてはとてもしっかりしていて、おしゃれのための本ではなく、読み物として楽しめた上でおしゃれに通じるというのがポイントかもしれません。


■パルファム紀行〜香りの源泉を求めて (2008年)
セリア・リッテルトン著、田中樹里訳/原書房/2,310円

お金と時間にたっぷりと余裕のあるライターの女性が自分自身の香りを作りたくて旅をするストーリーです。イギリス生まれの彼女はイギリス国内の調香師の下を訪ね、香水とは何かを知ることから始まります。成分を知ればしるほど本物志向が高まり、調べていくうちに高みを求めるようになる様子は、アパレル・ファッションブランドの香水から抜け出してニッキアフレグランスを求める人々の様子と重なります。彼女はお金と時間があったからこそ現地へ出向くことが出来たのです。香りに関しての全くの初心者がたどり着いた精油の産地の現状。そしてそこで分けてもらった精油についての率直な感想。全くの初心者が集められうる限りの知識をかき集めて勉強していく様子は目をみはるものがあり、僕の基本姿勢とも繋がります。彼女はまだまだ荒削りですからブランド名が違っていたり、幅広く香水を知らないために間違った記述もあったりしますが、そこはもう初心者スタートというご愛嬌です。マニアから見た細かい指摘に過ぎませんので、こちらの書籍は「えぇ〜、あの人に会ったの?」とか「そんなところに言って見たい!!」とか純粋に彼女を通して香りの旅の疑似体験が出来ればそれで十分価値ある書籍だと思います。本当に羨ましいの一言です。


■新編・香りの百花譜 (2000年)
熊井明子/千早書房/1,600円

春の園、ローズガーデン、夏の園、ハーブガーデン、秋の園、冬の園・・・と長野県は松本出身の著者が綴る花の香りのメモ。この著者はポプリ作家で、花をたくさん育ててポプリにしていく・・・というスタイルで記載しています。花について名前の由来、書籍の引用、和歌に詠まれたもの、など細かに本当に彼女が調べたものを「メモした集大成」のような1冊。ポプリ作家という視点ですので香水とは無縁ですが、小学校の思い出として鉛筆を削ったカスにスパイスを加えてポプリにする・・・なんてという発想もあって驚きました。今はもう鉛筆なんて使わないもんなぁ。削りカスの香りって懐かしさを感じるだろうなぁ。


■香りの花手帖 (2005年)
熊井明子/千早書房/1,300円

上記とそっくりなのですが、日本花の会「花の友」に掲載されていた花のファンタジーというものを加筆訂正した1冊で、ファンタジーというように花にまつわる神話なんかも沢山記載されています。和歌や短歌、俳句の引用も多く、古人がどのように花を愛でていたのかわかるというもの。ポプリ作家の視点らしく「乾燥させたらこうなる」という記載が興味深いです。やはりポプリになる花、香りがなくなる花、乾燥すると逆に悪臭を放つ花・・・いろいろですよね。ポプリにフレグランスオイルを使用しますが、香水自体には詳しくない方のようで、カズウェル・マッシーを使用しているという記述が沢山見られます。このブランドはCaswell Massey(キャスウェル・マッセイ)でカズウェル・マッシーで検索しても出てきませんのでご注意を。

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