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Migration de L'Arbre / ミグラシオン・ドゥ・ラルブル


<香 調> アロマティックシプレ
<仕 様> ユニセックス
<容 量> 50ml
<濃 度> EDP

トップ
クラリセージabs、ジュニパーabs、セドラ、グレープフルーツ、柚子
ミドル
エレミ、マスティック、ガイヤックウッド、マグノリア、オスマンサス、ポメグラネイト、ニゲラabs
ラスト
アンバーグリス、タバコabs、シーウィードabs、ベチバー、カブリューヴァ、パチョリ、ファーバルサム、シダーウッド、オークウッド、リアトリス、オークモス



 

1930年代に刊行された新美南吉の「去年の木」を表現した香り。最初の疑問は、どうして新美南吉なのか、でした。新美南吉は世界的に有名なの? どうしてそこに焦点が? しかも、有名な「ごんぎつね」や「手袋を買いに」があるのに・・・と思ってお聞きしたら、テーマを決める際にオーナーご夫妻が思い出のストーリーを出し合った中に「去年の木」があったのだそう。どうしてそれほど疑問に思ったのか、それは僕が新美南吉の生まれた町で生まれ、育ったからでした。

「去年の木」は、「木の移動」というタイトルになりました。とても短いお話ですので、ご存じない方はこちらをご一読下さいませ。1分で読めます。

木と小鳥の物語です。木の上で歌っていた小鳥は、再会を約束した春に南から戻ると木は伐採されていたのです。その木は工場で加工され、マッチとなっていました。そのマッチはランプの灯りとなり、小鳥の歌を楽しむように炎を揺らしたのです。

 

 

この物語は事実だけが淡々と書かれており、小鳥の心情も木の心情も描かれてはいません。その分、読者の解釈、余韻にまかせるというものなのですが、木と言う形(物質的な形)がなくなり、炎になってもそこに木の心、精神が宿っているという解釈が出来ます。人も亡くなった後、愛用していたものなど精神が宿ると考えることがありますよね。その炎に歌う小鳥。そしてあっけなく去ってしまう小鳥。精神になってしまってもいつでも会えるという考え方は、お墓や仏壇に手を合わせる日常へとつながっていきます。

ところが、Senyokoはこの物語の続きを考えたのです。

 

 

「小鳥は炎のついた灯りを切り株に持っていきました。すると、暖かい炎を感じた切り株から芽が伸び、周囲も芽生え始め、苗木はやがて森となり、小鳥たちを迎え若葉で優しく包み込んだのです。」

「考える」「想像する」ということは、子どもたちの情操教育教材になりやすいのでしょう。そして、しっかりと考えたからこそ、この物語が彼女の記憶に残っていたのでしょう。でも、こうなると物語の主題が違う方向に向かいますよね。それは人間と自然の共存というテーマです。

Art and Olfaction Aword 2019のファイナリストになったこの香りは、アブソリュートを多用したアロマティックウッディシプレとなりました。トップから広がるのは苔むした森の奥に入り込んだかのような、オークモスとシーウィードが重なるアロマティックシプレで、ところどころにフルーティーさとフローラルノートが感じられます。でもそれらは花畑を思い起こさせるものではなく、森の下草程度の量。ミドルからラストにかけての、少し土っぽく海藻を思わせるモスの香りは、ホウレンソウを茹でた時の香りに似ています。

 

 

森の中に入った場合、ウッディノートは木を切っていない限り香りません。そこにはフィトンチッドを始めとしたグリーンノートや湿気た香りが爽やかに香っているのです。これはまさにそうした部分に焦点を当て、さらに風景の細やかな部分まで想像させてくれるような香りとなっています。トップにクラリセージを、ベースにアンバーグリスを配置した意味は、クラリセージに含まれているスクラレオールという成分が、アンバーグリスの合成香料の原料となるから。つまり、環境は循環しているということですよね。

森の下草、コケ、落ちた果実や木の実。全てがパズルのように重なって1つの絵画となった香水です。

(07/06/2019)

 

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