*Log in
 *Log out
 *My account

| Top | Books | Topics | PMF | Q & A | Making | Essential | Perfumers |  PRESS |
  

 

■いざ、インドのグラース、カナウジへ!!

インドのグラースと呼ばれる町が存在していることを、どれほどの人が知っているのでしょうか。精油を扱う人々ですら、全く知らない町だと思います。アーユルヴェーダの歴史を学んだ方々も、インドの香料の歴史は学べど、この町の存在は学んでいない様子です。そう、町の人たちの65%が香料関連の仕事に就き、その25%は天然香料産業だという香料の町なのです。とにかく香料会社がいっぱい。でも、そこに行くのが一苦労なのです。もちろん観光産業などありませんから、外国人たちが足を踏み入れる町ではありません。ラクナウから続く道だってまだまだ整備途中で、舗装されているだけマシだという状態です。この道を、クラクションを派手に鳴らしながら、遅い車やトゥクトゥクを追い越して走っていくこと2時間半、たどり着いたのがカナウジ駅でした。

 

 

我らがこの駅に到着し、車から降りたったその瞬間から視線を感じるようになりました。そう、外国人がとっても珍しいわけです。駐車場のおじさんは自分の仕事振りを自慢げに語り、若者たちは一緒に写真を撮ってほしいと寄ってきます。観光地のインド人というか観光産業で生活をしているインド人たちは日本人をカモと見なし、悪びれる様子もなく詐欺行為を繰り返しますが、観光と無縁なこの町の人たちは、とても穏やかで優しく、それこそイスラムの教え、日常的に貧しき人には手を差し伸べるという人々でした。

 

 

近郊の古都が昔イスラム支配だったということもあり、近郊のこの町もイスラムの多いわけですが、駅にブッダが悟りを開いた菩提樹の巨木が。きちんと囲われ、大切にされている樹木でした。

 

 

当初、治安があまり良くない町だと聞いていたカナウジ。ガイドなしでは町中も歩けないことでしょう。駅で待ち合わせをしていたのが香料会社の友人、ムーサでした。メールのやり取りだけで取り付けた今回の訪問、いったいどこまで本気で考えてくれているのか、正直とっても不安でした。いつでもウェルカムだよ、と言ってくれたのは良いとして、本当に香料植物が見られるの? という不安。事前にお願いをしていたのはジャスミンとチュベローズの畑と蒸留所の見学でした。ジャスミンは北でも南でも栽培されているけれど、チュベローズは南にいかなくてはならない。チェンナイ郊外に蒸留所と畑があるからそちらに・・・ということで、今回の視察の旅はカナウジとチェンナイに決定したのです。偶然にも、5月下旬はダマスクローズの収穫期でもあると教えられ、この3種の花を一度に見られるなんて世界広しと言えどもインドだけなのでは? と大喜び。

 

 

Ali Brothersという会社の彼がムーサ。何よりもまず食事だ、とレストランに向かった一行。食事をしながら町について、彼らについての話を伺います。

この町はムガール帝国時代にペルシアから蒸留が伝わり、発展をしてきたそうです。精油を得るための農家も多くなり、今では200社ほどがこの小さな町に集まっているという香料の町で、偶然にもチェンナイのホテルに置いてあった雑誌をめくるとこの町のことが記事になっていました。perfume capital cityと紹介されています。

 

 

彼らと食事をしたのはレストランですが、この町の中ではとても綺麗な施設でした。施設、そうホテルなのです。このホテルは政府の運営で、この町にビジネスで訪れる客人たちをもてなすための施設なのです。宿泊施設も見てきましたが、もちろん豪華ではないものの安心、安全なホテルであることは間違いありません。また、こちらのレストランで給仕をしてくれた男性スタッフは皆、公務員なんですよ。ホテルのスタッフに早変わりです。

 

 

食後は、びっくりするほど細い路地をギリギリの車がすり抜けるようにして走り、住宅密集地から離れた畑に向かいます。この住宅密集地の写真がないのが残念ですが、凄かったです。

 

 

彼らはいくつもの畑をあちらこちらに所有していて、一か所に集まっているわけではないようです。その中の1つに案内してくれたわけですが、こっちこっちと手をこまねくそこは、トウモロコシ畑の間を行った先。この細い畝から外れると、もれなく泥にはまります。落ちないように気を付けて進んだ先にあったのは・・・

 


マンゴーとサンバックジャスミン

 

そう、サンバックジャスミンの畑でした。ジャスミンを見たいと言っていたけれど、どの種類のジャスミンなのか、までは指定していませんでした。インドのジャスミンと言えばJasminum grandiflorumだとばかり思っていて疑いもしなかったのですが、 Jasminum grandiflorumよりも見たかったJasmine sambacだったとは想定外の喜び。Jasminum grandiflorumはグラースでいくらでも見られますからね。ジャスミンティーやガーランド(花輪)に使われるジャスミンですが、彼らはこの花をアッターに使用するそうです。アッターとは、サンダルウッドオイルに香りを移したオイルのことで、高価なサンバックジャスミンを安価に楽しめる、という商品。イスラムの彼らはアルコール商品を使わないため、オイル希釈のものを使うのです。サンダルウッドオイル自体が高価だと思っていたら、マイソール以外で結構栽培しているようで、このカナウジでも政府主導によるプランテーションが始まるのだとか。それだけインドではサンダルウッドオイルの需要が高いということですよね。それでもサンダルウッドは安価なわけではありませんから、コンパウンドが広く流通しているそうです。コンパウンドは品質が安定していて使いやすいですからね。(とても良くできているコンパウンドで、人気な理由がわかるものでした)

 

 

サンバックジャスミンの横にはダマスクローズ畑が。共に収穫してしまっている畑のため、風を染めるほど花はないのですが、それでも香りは楽しめるほど咲いていました。上の画像の畑はまだ樹高が低いのですが、下の画像の畑では半蔓性のダマスクローズが束ねられて植わっていました。束ねるなんて初めて見たのですが、収穫しやすいようにしているということなんでしょうね。このローズもアッター用のもので、ローズアブソリュートを得るためのローズ畑はまた別に、デリーの近く(アーグラとデリーの中間に位置するアリーガルという町)にあるそうです。なんとその価格は卸値でもアイリスコンクリートを超える高価格帯。インドのローズアブソリュートはそれほど貴重、希少ということです。ローズ自体どちらかというと寒冷地でも育つほどの植物ですから、気温が40度を超す北インドではどこでも育つ、というわけではないはずです。この日も、午前中は曇天から雨だったのですが、食後から晴天となり、汗が止まらないほどの気温に・・・。

 

 

彼らの畑にはサンバックジャスミン、ダマスクローズ以外にもいろいろな植物がありました。こちらはユーカリ。(僕が手にしているのは別の樹木です)
ユーカリの後ろはサンバックジャスミン畑で、その奥はトウモロコシ畑が続きます。

 

 

中でも偶然にしては珍しかったのはヘナの木を見られたこと。ちょうど偶然にも花期だったようで、花の香りを確認することが出来ました。この花からオイルを得るそうです。花の香りは酸味のある少しフルーティーなものでしたが、オイルになると少しアーシーな大地っぽいニュアンスのものになるそうです。

 

 

畑のあちこちに雑草のように生えていたのはカナビス、つまり大麻。これを乾燥させて持ち帰ると捕まるよ、という本物です。この町でもこれを吸っている人が普通にいるようですが、あまりに普通に生えているので、危険には感じないほど。やはり生成しないと成分は凝縮されないのでしょうか。(乾燥させた葉だけなら危険度は低い?)

 

 

次に訪れたのは、今回の視察の中で特に見たかったMittiというもの。謎多き国、インド。このミッティと呼ばれるものは、乾季の後、最初の雨が降った後に土を固めて焼くのです。そしてその焼いた土の香りをサンダルウッドに移すというアッターオイルなのです。大地の香りがすると言われるこのミッティ、土から香りを作り出すなんて予想もしていなかっただけに、行く前から興味津々だったのです。乾燥した土の匂いはまるで牛糞・・・決して良い香りではないのですが、それが焼かれて(細菌が死に)オイルの中に入ると、濃度自体も薄くなって仄かなアニマルノートがサンダルウッドに加わる、という感じになります。このようなオイルがあるんですね〜。まだ知らないことが多いインド。インドしかない植物、オイルは他にもありました。

 

 

次は、彼らの家にお邪魔することに。というか、家ではなく家の横にある蒸留所の視察です。こちらではちょうどナガルモタ(シプリオール)の蒸留をしていました。ナガルモタはカヤツリグサのような植物で、その球根から香料を得ます。とても深みのあるダークでアーシーな香りが近年人気で、調香師たちの使用量も増えているのですが、それもそのはず、ウードのコンパウンド(調合香料)を作り出すのに使われるから。ウードがお好きな人ならば好きに違いない、という香りなのです。

 

 

こちらがナガルモタの根。これはカナウジが産地ではなく、近郊の町から取り寄せて香料を得ているそうです。この根を別の建物で粉砕し、窯に入れる。蒸留後の残りカスは粉末状にしてインセンスに使われるそうです。カスだってかなり香っていましたから。

 

 

カナウジには、昔ながらの蒸留釜が未だに残っています。郊外に新しい工場を作っている会社も多いようで、随分減ったと言っていましたが、彼らの家にはまだこうして残っていました。彼らにとってカナウジを説明する上で欠かせない風景なのだと思います。

 

 

この蒸留所を有しているのは案内人ムーサのいとこ。そう、みんなAli Brothers Perfumersなのです。彼らの会社は別々ですが、全てAli Brothers Perfumersという親族会社です。1939年に彼らの祖父がアフガニスタンから移住して始めた会社で、イケメンな彼は次期社長。ここではサンダルウッドオイルも蒸留しているそうで、サンダルウッドがたくさん袋に入っていました。その香りはまさにナチュラルなそれ。日本人がヒノキに感じる愛情を、この国の人たちはサンダルウッドに感じるのでしょう。

 

 

その他にも蒸留している様々なオイルを香られていただいたのですが、サンダルウッドは最初、淡黄色です。というか一般的には淡黄色のものだと思うのですが、この真鍮のボトルに入れて太陽熱で温めると、色が茶褐色へと変化するそうです。彼らのオイルは真鍮の容器に入っているものが多かったのですが、単純に保存する、というだけの意味合いではないようです。

 

 

右のオイルが真鍮の容器で寝かせたサンダルウッドオイル。とっても芳醇な香りが広がります。寝かせたものの方が香りが良くなるのはパチョリが代表的ですが、サンダルウッドもまたその1つ。左は彼らがKatia Ruhと呼ぶオイルで、マリーゴールドだそう。6,500キロの茎から1キロのオイルが採取されるそうで、花からのオイルはまた別にあるそうです。こちらは茎からのオイルで、とってもアロマティックな少しフルーティーなオイルになっていました。また、ベチバーは北インドのものの方が高価で、南インドのものは安価になるなんてお話も聞いたり、Kebraと呼ばれる日本で言うとタコノキとかパンダン(Pandanus odorifer)からも香料を採取しているそうです。それはまた別の地域にある蒸留所で・・・。

インドの会社の商品を見ていると、通常ではあまり見かけないアブソリュートがあったりします。本当に溶剤抽出をしているのか、という疑問をぶつけてみたところ、意外な事実が判明しました。彼らは根のことをアブソリュートと呼んでいるようなのです。根のヒンドゥー語がアブソリュートの意味になるそうで、香料の区分ではないのだと。だから消費者が混乱してしまうわけです。アブソリュートの定義を知らない彼らにスタンダードな考え方を教え、香料の区別の話をしたのは最後の夜のことでした。

 

 

ネパールで栽培されているというゴールデンチャンパカのアブソリュートがあったり、ピンクロータスアブソリュートがあったり、もちろんサンバックジャスミンのアブソリュートもあったりしたのですが、彼らにお願いして出してもらったのはチュベローズアブソリュートとコンクリート。これがまたとっても良い香りで、そのままで十分香水になりうる豪華さでした。そう、次はこの花を求めて南インドへ向かうのです。

 

 

すっかり打ち解けて仲良くなったガイドのランジャン、Ali Brothers Perfumersのムーサと共に。

 

 

治安の問題なのか、暗くなりすぎて運転が危険なのか、17時には町を出ることになりました。今回のインドでは、観光よりも視察重視ということでガンジス川を見る予定はありませんでした。ガンジス川がどの辺りを流れているのかも知らずに出かけたのですが、偶然にもラクナウからカナウジの中間に流れているということで、帰りにはガンジス川に沈む夕陽を見ながら休憩を。

この後、ムーサも一緒にラクナウへと移動し、翌朝のフライトに向けて空港に一番近いホテルに宿泊することに。そこは1泊2,000円というこの旅の中で一番の安宿。ある意味チャレンジな宿だったらどうしよう・・・と不安を抱えながらの移動でした。さぁ、次は南インド、チェンナイ編へと続きます。

(29/05/2015)

 

 

<profice fragrance magazine Topに戻る>

profice〜香水のポータルサイト〜