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■カンボジアの胡椒は世界最高品である。

 

 

胡椒の産地というと、まず世界第一位として有名なのがベトナム、次いでインドネシア、インド、スリランカなどの熱帯地域が浮かびます。僕か訪れたマダガスカルでも栽培がされていましたが、2016年の統計だとマダガスカルは世界第8位なのだそう。精油を扱う人ならば、その産地は知らず知らずのうちにチェックしたり、記憶の片隅に入っているものだと思うのですが、カンボジアはあまり馴染みがなかったのです。しかし、昨年カンボジアを訪れた際、世界第12位の産地であり、品質の良さでは世界でも群を抜いているのだということを知って驚きました。これは、いつか産地を、農家を訪れてみないと!!

 

 

カンボジアの中でもそのほとんどを占めているのはカンポットと呼ばれる首都プノンペンから海に向かった海辺の内陸が産地です。プノンペンのベトナム寄りの地域にも有名な産地があります。しかし、僕が出かけるのはシェムリアップでした。もちろん、カンポットにも行こうと思えば行けるでしょう。観光客用のツアーもありますし、観光客用に用意された農園も別途用意されているほどですから。でも、僕は出来ればそうしたところではなく、普通の農家を訪れてみたい。そこで、シェムリアップ郊外へ車で3時間ほどの距離にある、コーケー地域(コーケー遺跡群が有名な地域です)へと向かったのです。至る所にあるマンゴー畑を抜け、走り出して1時間・・・あれ?

 

 

異様な音がして車が止まりました。道は舗装されているのにガタガタです。そう、なんとタイヤがパンク!! こういう時、手近にある枝を折ってこうして後続車に知らせるんですね。日本だと勝手に折ってしまうと怒られそうですが。

 

 

手配していただいた車には、スペアがありましたので、付け替えたらすぐだね・・・なんてのんきに車内にいたら、降りてくれ・・・と。そうか重いか・・・。え?
スペアタイヤはあれど、工具が全くないそうなのです。そこで近くの民家までガタゴトゆっくり車を走らせ、そこの家の方にお願いをして、工具を貸してもらうことに。でも、その家にもなかったため、バイクで借りに行ってもらうという二段階方式。見事なパンクっぷりでしょ?

 

 

暑い暑い暑い、声に出したいくらい暑い、まさに炎天下での出来事でした。でも、そこは仕方のないハプニング。タイヤの付け替え作業を見守りつつ、長くなりそうだということで、ガイドのブンラットさんが民家を案内してくれました。ハプニングのおかげで訪れることが出来たわけです。

 

 

生まれたての子犬たち、産まれたばかりの赤子。民家が高床式になっているのは、雨季に雨が降り続いて洪水になった時のためではなく、湿気対策でもなく、なんと風水なのだそう。縁起が良いんだそうですよ、高床。

 

 

マンゴーの木から吊り下げられたタイヤをブランコにして遊ぶ、無邪気な子どもたち。あぁ、何かお土産になるものがあったら良かったのに。

 

 

年中30度を超える熱帯であるカンボジアでは、ハンモックが日常的に使われています。あっちこっちで見かけたのですが、涼しそうですよね。化成繊維のものは安く、手織りのものは高いというわかりやすい価格設定でしたよ。

 

 

煮炊きは全てここで行う・・・そう、ここはキッチンです。昔ながらの薪で炊く窯。首都プノンペンは高層ビルが立ち並んでいますし、シェムリアップも観光地化していますが、少し郊外に離れるとこれが一般家庭の暮らしなのです。

 

 

日本では、完熟するまで待ち、自然落下したものこそが最高の糖度だと、とにかく糖度の高いものが最高級品だとする風潮にありますが、日本以外の国ではそんなことしていません。きちんと酸味のある、それでも最高に美味しいマンゴーが安く食べられるんですよ。これは僕も知らなかったのですが、カンボジアのマンゴーにもサイズや味によって種類があり、バナナのようにグリーンのうちに収穫して追熟させるのだそう。

 

 

日本に住んでいると、どうしても島国であることから、中心には山があり、山から川が流れて平野が広がるという図式が常識的に頭に入ってしまっています。でも、カンボジアには目立つほどの山がなく、特にシェムリアップにあるのは小高い丘程度でした。カンボジア国内は北や南に山があるようですが、それでもそこまで行かないとないわけです。画像のような湖、池があるのは川からのものではなく、湧水によるもの。そう、カンボジアは平野と湧水が多いのです。ということは、自然と農業が発展してきたわけですよね。

 

 

水牛たちが水浴びをしていた湧水池には、水生植物が茂っていました。これ、ナンだかわかりますか?

 

 

朝顔そっくりの可愛らしい花が咲くことから、英語ではWater Morning Gloryと呼ばれる植物なのですが、これは空心菜なんですよ。

 

 

ハプニングに時間がかかってしまったこともあり、目的優先ということでランチを抜き、コーケー遺跡の観光もパスしてたどり着いたのが胡椒農園でした。本当はシェムリアップのもう少し近くにも農園はあるのですが、こちらの方が大きくてしっかりとしているから、とこちらに連れてきて下さったのだそう。ここでテンションはマックスに!!!

 

 

あぁ、実っているじゃないですか!!! 事前に調べた段階では、5月から始まる雨季の前に収穫が終わってしまうと書いてあったのです。ギリギリか、さもなければ見られないかもしれない。でも、畑だけでも栽培の様子だけでも見たいと来たのに・・・収穫中だったのです。

 

 

大きく大きく育て、脚立で収穫する女性たち。たくさん実っている胡椒を全てランダムに摘んでいるわけでありません。きちんと収穫期を見極めていたのです。

 

 

お宝ですよ〜。僕にとってはこれがお宝。赤く色づいているのは完熟したもの。カンボジアでは、この完熟が始まった房を収穫しているのです。胡椒には、グリーンペッパー、ホワイトペッパー、ブラックペッパーの3種がありますが、カンボジアにはレッドペッパーというものもあります。グリーンペッパーというのは収穫仕立てのフレッシュなもので、野菜のように扱われ、炒め物にして食べられています。これが最高に美味しい。ホワイトペッパーはグリーンのものを水に浸けてふやかし皮を剥いたもの。グリーンのものを天日で乾燥させたものがブラックペッパーです。そして、完熟したこの赤いもがをレッドペッパーと呼ばれているのです。世界的にレッドペッパーと言えば唐辛子ですが、完熟のものをそう呼ぶんですね。ちなみに、ピンクペッパーというのは胡椒とは全く縁のない樹木の実です。

 

 

この赤と緑対比。ジュエリーのような輝きと艶。袋の中に顔を入れるとフレッシュな香りが広がります。

 

 

実った胡椒を見たら、次に見たくなるのはもちろん花です。全て実ってしまっていたら花は見られないよね・・・と思ったら、別の区画には開花中のものがたくさんあるではないですか。これが花なんです。後ろに実ったものも見えていますよね。胡椒は、植えて4年で実るそうですが、植えた時期によって開花期が違うため、一年中収穫が出来るように季節をずらして植えているのだそう。なんだ、一年中見られるんだ!!

 

 

また、こちらの農園では2種類の胡椒が栽培されていました。右は葉が細いタイプのもので、ベトナムと同じ品種。左のものは葉が丸みを帯びているのが特徴で、これはタイの品種だそう。品質が良いのは右側。ちなみに、我が家で栽培しているのは左側のものです。ということは、タイの品種なんですね。このタイの品種、後日タイのマーケットで見かけることになります。

 

 

手前のものは植えて間もない一年目の苗。上の輪っかを設置することで柱が倒れないようにしてあるのですが、本当は胡椒というのは日陰が好きな植物です。だから、黒い覆いをして育てている農家がたくさんあります。大きく育つと自身の葉で日陰を作り出すため、覆いが必要なくなるわけです。

 

 

普通であれば、これで胡椒畑は終了なのでしょうが、僕は他のことが気になって仕方がありませんでした。植物の中でこんなに下まで葉が残っているものは少ないのです。普通、葉は下から枯れていくのですから。

 

 

葉をかき分けて中を覗き込むと、次々と新しい枝が伸びているわけではなく、古いものが枯れていないだけなのだとわかります。しかも、この位置に胡椒が実っているって凄くないですか? 胡椒は樹木ではなく木質化するつる性の植物です。下には落下したペッパーが至る所にありましたが、発芽率は極めて低いため、自然発芽してガンガンに増えることはありません。また、こうした農園でも栽培を初めるにあたっては、専門家を招くそうですので、簡単に栽培が出来るわけでもないようです。

 

 

樹木に張り付いて登っていく植物ですので、こうして張り付けて育てていきす。張り付くまではテープとホッチキスを使用していたんですね。

 

 

こちらの農園では、胡椒の他に画像のような樹木の苗をたくさん育て出荷していました。こちらは何かわかりますか? 手前のものと奥のものと葉の形が違うことから二種類あるのがわかりますが、これはカシューアップルの苗なんです。アップルそっくりの香りがする果実にちょこんとくっついているのがカシューナッツです。(詳しくはスリランカの旅をご参照下さい) カンボジアではマンゴーが多いのですが、価格が安いためカシューアップルに切り替えているのだそう。輸出も出来ますからね。

 

 

帰りがけ、トラックに苗を積み込んでいる様子を見ていたらバイクに乗ったおじさんが登場。農家の方・・・にしか見えないこの方がこの畑のオーナーさんでした。ここで購入が出来たら嬉しいのに・・・と言った僕に500g×2袋のブラックペッパーを持ってきてくれたのです。合計1kgのブラックペッパーが卸価格で10ドル。安い!!!ちなみに、カンポットのペッパーだと30ドルになり値下がりすることはないそうです。

 

 

花、完熟、未完熟、収穫、栽培・・・と一連の流れを全て見られたラッキーな視察でしたが、その帰りに地元のマーケットに立ち寄った際、なんと干している様子も見ることが出来ました。ちょっ、ちょっと止まって!!! と車を止めた僕に「目ざといね」とガイドの声。

 

 

しかも、干してあったのは乾燥が完了したブラックだけではなく、これから乾燥させるグリーンも含まれていたのです。あぁ、なんてラッキーなんだろう。

 

 

精製していないので、ゴミも入ってい待っていますし、取り除いていないので赤い完熟のものも紛れ込んでいます。ベトナム産のブラックペッパーの中にこのような完熟のものが入っているのかなぁ。今までしっかりと気にして見たことがありませんでした。

 

 

カンボジアの胡椒が今までなかなか日の目を見ることがなかったのには理由があります。70年代まで盛んだった胡椒農家が、ポルポト派の大虐殺により焼失し、荒れ地と化しました。その後に栽培された胡椒は、貧しい国だったカンボジアでは流通が上手くいかず、全てをタイに輸出してしまっていたのです。タイから世界へと販売された際、カンボジア産であることは謳われなかったわけです。そして、ようやくここ数年でカンボジアンペッパー、特にカンポット地域のものがブランド化されたわけです。

 

 

コーケーからシェムリアップに戻る途中にはドラコンフルーツ(ピターヤ)の畑がありました。8月であれば果実が実っている様子が見られるそうですよ。

 

 

手のひらより大きい顔サイズのサボテンの花が咲くのですが、残念ながら開花するのは夜。ガイドさんから、カンボジアではヤシを育てる家が多く、大きなヤシがあるところが古くからある村だと教わりました。森を切り開いて開拓された村はまだヤシの木が小さいのだと。ヤシの花の付け根から得られるジュースを煮詰めて作るココナッツシュガーもカンボジアの名産となっています。

この後、観光をパスしたことで生まれた時間を有効活用し、地元のマーケットを2ヵ所回りました。タイでも食べられている野菜が多かったのですが、日本では見られない、食べられない変わった野菜たちが物凄くたくさんありましたので、そちらの様子は別途、カンボジア料理と合わせてご紹介したいと思います。

 

 

もちろん、その日の夜はグリーンペッパーを使用した料理を食べましたよ。海鮮、エビやイカが一番良く合うのだそう。そうか、昨年プノンペンの市場で見た時は八百屋ではなく魚屋にあったもんなぁ。匂い消しの役目もあるんでしょうね。スパイスであり野菜でもある、それが胡椒なのです。インドネシアやマレーシアではどのように食べられているのだろう・・・興味はまだまだ尽きません。

(01/06/2017)

 

 

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